内容説明
「彼女とセックスできる理由を話して」
性的不能だと信じていた夫の愛人は、醜く太った中年の女だった。
専業主婦の日奈子のもとへ、ある日、夫の愛人と名乗る、太った中年女性がやってくる。
夫のユキは長らく性的不能だったはずで、日奈子とはセックスレスの日々が続いていた。
いったいいつから、私たちの関係は、こんなにも不安定なものになってしまっていたのか――。
日奈子は、衝撃のなかで、ある行動に出る。
どんな夫婦にも訪れ得る、あやうい瞬間。
繊細な描写で、残酷なまでにむき出される心の機微を描く。
解説・東直子
※この電子書籍は2016年3月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ピロ麻呂
32
冒頭から夫の不倫相手が自宅に押しかけてくるドロドロな展開。でも、ただの不倫小説にならないのは歌人カトチエの言葉選びが素晴らしいから。夫婦は家族であっても他人。ある程度の妥協が必要ってことか。2019/07/09
桜もち 太郎
13
夫の不貞を許してやってほしい。常にそんなことを感じながら読んだ。夫のユキは幼いころに性的被害を受けて、EDとなる。しかし太った醜い中年の女性には機能を果たすことはできる。半年以上もその女性と計11回の営み。妻の日奈子にしてみれば不能の夫を受け入れていたのにも関わらず・・・。日奈子は心のバランスを図るためにか、出張ホストで慎二と結ばれる。この描写、この物語のクライマックスの割には生々しさが欠けていたのが残念。男の立場からすると夫ユキに同情する。これが女性の立場だと全く違う感想になるんだろうなぁ。2021/06/22
pandakopanda
6
結婚して10年、穏やかに暮らしていた日奈子に、突然中年女性から夫のユキが不倫している事実を突きつけられる。物語の大部分は日奈子の内面の葛藤について描かれている。長く夫婦関係を続けていくと、生活をしていく上でお互いに我慢することもある。それでも思っていることを言い合える関係ならいいけれど、日奈子の場合、専業主婦という負い目もあって、自分の気持ちに目を逸らして蓋をしている。この状態が続くのは精神的に良くないし、不倫が発覚しなくても、遅かれ早かれこの関係は破綻していたんじゃないかな。いろいろと考えてしまった。2019/06/09
ふじこ
5
専業主婦の日奈子の元に突然現れた女。太っていて醜いその女は熟女キャバクラに勤めていて、半年前から夫とセックスする仲だと主張する。ふたりで長い時間をかけて積み上げてきたものがあっという間に崩れていく。幼い頃の性被害による影響で、太った中年女性にしか欲情できなくなった夫のユキ。頭では理解したつもりでも感情が追いついていってくれない。自分とはできなかった挿入という行為を他の女の人にしたという事実。壊れていく過程を見ながら、このふたりはもうずっとアンバランスだったんじゃないかと思った。2019/06/26
レイコ
3
読み始めたら止まらなかった。不倫や浮気がわかるまでのあれこれかと思えば、旦那の“セックス相手”が家に押しかけてきたシーンからはじまった。それから、目が離せなかった。妻の言葉も葛藤も、旦那の行動も後悔も、どちらも生々しくて、だから見守るしかなくて、さいごまで一気に読んだ。終わらない結末だけど、はじまりだから救われた。アンバランスがわたしたちの日常。2019/06/10