内容説明
戦時下においては、極刑にも値した徴兵忌避。だが、それ以上に陰湿で残酷な現実とは……。自由を求め、たった一人で起こした反乱に、今また責められ、追われ、反乱を続けねばならぬ。そう、不安な旅、危険な旅、笹まくら……。ユーモアを交えた軽妙な文体と執拗な内面凝視の裏に、作者の錯綜した想いをこめて、平安と繁栄の現代に問いかける問題作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふみ
33
初めて この本を読んだのは十代後半だったかなぁ?丸谷先生の華麗なテクニックに魅了され、当時すでにレトロだった時代背景と政治的見解を面白く読み、そのまんま、裏声で歌え君が代に突入し、えらい賢くなった気がしたもんだ。久々に読み返しましたが、こんなにエロチックだったのか!?←そこ?WW一ですが、これ、レトロにはなっても、古くはならない。あなたも何処かで必ずツボる。読んでください。損はないです。2014/05/10
Gotoran
32
戦時中、徴兵忌避者として過ごした男(主人公)が、終戦後もその過去を引き摺り様々な形でその影を落とすという精神の様相が描き出される。作品全体を通して日本と日本人の戦後が冷静に洞察され、国家とは自由とはが問いかけられる。小心翼々として希望と絶望の境界を揺れ動く主人公の意識が現在と過去を頻繁に往復して綴られる著者の表現描写は秀逸で舌を巻く。また最後の過去に遡っての徴兵忌避に実際に踏み切る直前まで逡巡し思索を重ねる主人公の哀切で叙情的な文章は圧巻。かなり前に読んだ米原万理書評本で“打ちのめされるようなすごい本”↓2014/06/16
みなみ
12
Kindle unlimitedで読了。米原万里「打ちのめされるようなすごい本」で紹介されていた本で、徴兵忌避という内容に興味を覚え読んでみた。主人公の浜田は私立大学の職員。戦時中は杉浦と名前を変え、日本中を旅して官憲の目を逃れる。彼はある女性と一緒に暮すことになる。本作は過去と現在がくるくると交錯しじわじわとストーリーが進んでいく。現在で起こる事件と過去の逃亡生活は区切りなく意識の中で溶け合って融合するような。終盤の展開は衝撃で、こういう結末になるのか…と呻くような読後感だった。2021/12/10
しろうさぎ
4
「徴兵忌避」は作者が憧れつつもできなかった選択。この小説はその憧れへの「復讐」だと語っている。入り乱れる主人公の現在と過去、本名と逃亡中の偽名との二人格。時々で大義は変われど、一貫して同調圧力が息苦しい日本の社会(私の生きる現在も変わらない)。主人公を追い詰める筆頭の男は、その悲惨な従軍体験(長い独白が突然挿入される)を知れば、悪者と決めつけがたくなる。一方主人公も、忌避に至る思考こそ高尚でも、家族・友人・恋人に対し利己的だ。笹の葉音が不安を募らせる彼の旅路、行き着く先がわからないまま劇的な終幕となる。2020/08/02
issy
3
かつて徴兵を忌避し東京を離れ全国を逃げ回った過去をもつ浜田は逃亡当時の恋人の訃報に触れ逃亡中の数々の出来事がフラッシュバックしては現在進行形で自分に起こっていることや周りの人々の言動と自身の徴兵忌避との因果を考えずにはおれなくなる。彼の過去を糾弾する雑誌記事によひ課長昇進の道が閉ざされたのみならず地方への左遷が示唆され身の振り方を考えていた時に発覚する妻の問題。それも実は最初から浜田に押し付けられたものだったのか。しかしその妻に「自由」を見てかつて国家に反逆して反抗の旅人であった若き日の心が蘇る。2024/05/25