内容説明
人間の記憶をレコーディングし、他人にもわかるよう翻訳する技術を生みだした会社・九龍。創業者の不二が病に倒れてからも事業を拡大し続けていたが、記憶データをめぐって起きたいくつかの事件により、世間から非難と疑いの目が向けられていた。九龍に所属する記憶翻訳者の珊瑚は、恩師の不二と大切な居場所である九龍を守るため、真相を探ろうとするが……。デビュー作『風牙』に連なる中編集。/解説=森下一仁
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
63
九龍(珊瑚)シリーズ第2巻。今回はミステリー色強めな二編がありますが、相変わらず、優しさもある。「六花の標」はワイダニット。自分の生前のプライベートを晒し、仁紀君の今後も下世話な好奇心と悪意に塗れかねない遺言を雪女肌は何故、残したのか?団藤さんのサポートもあって良かった「銀糸の糸」は記者をシミュレーションに誘うのに違和感を持っていたらそういう事か。しかし、生まれ、汎用されるようになった技術が悲劇を引き起こしたという指摘に痛みを感じた。同時にその連続殺人事件の犯人は捕まっていないという事実はゾッとさせられる2020/06/11
タカギ
30
サイン本。うれしい。こんなに早く続編が読めることも含めて。デビュー作『風牙』に続くシリーズ2作目。短編が3つ。どの話も良かったけれど、私は前2編が好み。表題作はちょっと感傷的に過ぎる気がした。自分は冷たい人間なのかも、と後ろめたくなったけれど、仕組みが理解できなくて共感できなかった。再読して変わることがあるといいと思う。「銀糸の先」では<九龍>に敵対する何かが暗躍していそうな雰囲気だったので、次作はそう思っていいでしょうか。2019/07/06
rosetta
23
★★★☆☆創元SF短編 賞でデビューした作者のシリーズ2作目ということらしい。記憶を取り出したり伝えたりと言う設定は先日読んだ『名もなき星の哀歌』にちょっと似ている。あちらは魔法でこちらはSFだが。設定を活かしたハートフルだったりハードミステリーだったりする一二話はよく出来ていると思うけど、3話はなにこれ?解説によるとどうやら前作を読んでいないと楽しめない模様。個人的には上司の団藤がいい感じ。こんな上司が欲しいしこんな上司になってみたい。まあ、次回作が出たらまた読みたいかな。2019/08/21
もち
19
「それでできている場所だ。それだけでできているんだ」◆擬験空間のテスト中、珊瑚は存在しないはずの影に気付く。漆黒の獣を追いかけた先で、辿り着いたのは不思議な森。構造上、あり得ない空間で、記憶に囚われた珊瑚。声をかけたのは、誰。(表題作)■シリーズ第2作。記憶の公開と殺人事件、というサスペンス色の強い2短編と、瑞々しい感動を呼ぶ表題作からなる中編集。その人にしか分からない、刺激と想起の組み合わせ。名前を付けると、途端に世界は優しくなる。2019/11/13
羊山羊
13
風牙からの続編。相変わらず大阪弁主人公珊瑚がいいキャラをしているが今回は前作に比べて珊瑚がやや落ち着き気味。銀糸の先が突出して面白い。インタビュアー香田の視点がメタからメタへ目まぐるしく変化してゆく様と、結末に至るまでに描写される努力の量に言葉を失ってしまう。シーンで好きなのは表題作で珊瑚と他者の追憶が混ざりかけるシーン。臨場感抜群の名シーンだと思う。ラストもそれなりに救いのある結末でよかった。一気読み。大満足の1冊。2019/09/06