内容説明
1950年代、6歳から10歳まで台湾にいた「ぼく」。日・米・中・台の会話が交錯する旧日本人街「模範郷」。そこは間違いなく「ぼく」の故郷であり、根源であった。何語にも拠らない記憶の中の風景が変わり果てたことを直視したくない「ぼく」は、帰郷を拒んでいた。だが知人の手紙を機に半世紀ぶりにかつての家を探しに行くことを決意する。越境文学の醍醐味が凝縮された一冊。第68回読売文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
53
著者の複雑な生い立ちを差し引いても、永遠に失われた故郷への憧憬は胸を打つ。それは誰しもが抱く感情だからである。静かに心に食い込んでくる作品集であった。2019/03/29
かふ
16
『星条旗の聞こえない部屋』を読んだときはリービだと思ったけどこれを読んだ後には英雄と呼びたくなった。リービ英雄が台湾の「模範郷」と呼ばれたかつては日本人居住地で敗戦後はアメリカ人の居住地となった場所を尋ねるドキュメンタリー映画のメイキング私小説。屈折していると言えば隔離された居住地で外の台湾人とも交流がなく繭の殻のように守られていた「模範郷」。2019/07/16
武井 康則
15
「模範郷」「宣教師学校五十年史」「ゴーイング・ネイティブ」「未舗装のまま」の4編を収める。著者は中国研究者の父を持ち、その関係で中国で幼年期を送る。八路軍に追われて台湾では日本人が作った「模範郷」という集落に住んでいた。半世紀ぶりに台湾台中に降り立つ。文学関係者とシンポジュウムで訪れたわけだが、そこで残っているわけもない旧家を見、先達のパール・バックの本を手に入れ、追憶に浸る。舌足らずに思える文体は、ネイティブでないため、ここまで和語を使える人も自分の思いは語り切れないのか。越境文学とは、言い得ている。2022/06/06
アリーマ
14
アメリカ人だが台湾で生まれ育ち、日本に定住した文学者のエッセイ。アメリカ、日本、中国、そして台湾の四つの国の狭間で惑う作者の思いが綴られていく。パール・バックに関する考察が特に興味深かった。日本に長く住んで日本語が達者な外国人、という枠を軽々と超越して、中国や台湾というフィルターから俯瞰するアジア世界の独特な感触が深く刺さった。★★★★2019/05/15
ほんままこと
10
リービ英雄は少年時代を台湾に過ごし、その後父と母は離婚し、母に連れられ障害者の弟と共にアメリカに移る。父は中国人の若い女と再婚する。その台湾を半世紀ぶりに再訪する物語。アイデンティティは言語、社会によって規定されるのだろうが、彼は台湾で耳にした中国語ではなく日本語によって小説を書くようになる。中国語を自在に操ることが出来たパール・バックがなぜ大地を英語で書いたのかに関して考え込んだリービは〈人種でも生い立ちでもなく、文体の問題なのである〉と結論づけているのに感心した。2022/03/27
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