内容説明
鬼気迫る“自殺者と自殺幇助者”の心理葛藤。
噴煙吹き上げる春まだ浅い三原山に、女子大生がふたり登っていった。だが、その後、夜更けに下山してきたのは、ひとりだけ――。
遡ること1ヶ月前、同様の光景があり、ひとり下山した女子大生は同人物だった。自殺願望の若い女性ふたりに、三原山まで同行して、底知れぬ火口に向かって投身させた自殺幇助者の京大生・鳥居哲代。
生きていることに倦んだ高学歴の女学生たちの心理を精緻に描き、自殺者と自殺幇助者の軌跡をミステリー風に仕立てた悽絶な魂のドラマ。高橋たか子の初期長編代表作で第4回泉鏡花賞を受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
19
空襲のあとの焼け野原の東京の街と、生き物の気配もない溶岩ばかりの火山、その荒涼たる風景が彼女らの心の色だっただろうか。敗戦直後のインテリ青年の自殺で思い出すのは原口統三で、その懊悩と死がただ孤独だったのに対して、本書では三人の女性が死への親密さによって結ばれ、死への欲望を互いに模倣しあい誘惑しあって死に近づいてゆく。あらゆる価値の崩壊した戦のあと、共産主義など新思想にたやすくのりかえて器用に生き延びた人々とことなり、火口の奥底のような自らの心の奥に向ってひたすらに内省に沈潜するとき、生への執着はもはやない2021/11/21
;
5
15歳の時に読みたかったとも15歳の時に読んでいなくてよかったとも思った。2021/03/19
amanon
3
二十数年ぶりの再読。こんなに凄い作品だったのかという驚きと同時に京都が主な舞台だったことが殆ど記憶に無かったのが我ながら意外。とにかく強い自殺願望を抱く二人の友人に一抹の違和感を覚えながらも、ほぼ受け身に従う主人公哲代の姿が何とも印象的であるのと同時に不気味というべきか。自我らしきものはありながらも、それは酷く捉えどころがなくふわふわしている。それでいてどこか非常に強情と思える部分と奇妙なコントラストを見せている。また、哲代と二人の友人を結びつけているものがか、この三人に友情とよべるものがあるかも謎。2025/11/11
ざじ
3
気が滅入るほど昏い。死への関心を手探りで思索する手つきに終わりも救いもない。中盤登場するあまりにも澁澤龍彦すぎるキーマンのフィクショナルな存在感がちょっとした気休めにはなるが、とはいえこの新キャラの言動によって物語後半の地獄度合いも増していくので凄まじい。2025/07/12
ゆーじ
3
非常に良かった。昭和八年に実際にあった事件を題材に描かれた小説とのこと。この謎めいた面白さは一体なんだろう。東京にむかう汽車の中で砂川宮子は「車窓から身を乗り出して遠ざかっていく命に泣きながら手を振っていた」と書かれているが織田薫はきっと「遠ざかっていく命にむしろ笑みを湛えて手を振っていた」ことだろう。薫は宮子と同じように三原山に登るのに拘るがイラついていた哲代は最後くらいは違ってもいいだろうと思っていたのかな。孫が高校に入ったら薦めます。2025/03/01




