内容説明
98歳を超えてなお、旺盛な制作意欲を持って絵画に取り組む著者が、若き日の懊悩や時代に翻弄される人生について、ウィットと哀しみにあふれる文章で綴る日々のかたち。
福岡県飯塚市、筑豊の炭鉱を経営する家に生まれた著者が、東京美術学校めざして一人上京し、地下鉄銀座線の開通にわく東京で、「エカキ」となっていく自分を振り返った自伝的読み物。
戦争へと向かう日々の中で、藝大生として送る日々の暮らしののどかさ、藤田嗣治や今西中通との交流、坂本繁二郎の想い出。戦争のまっただ中にあっても、想いを告げる苦しさと憧れの女性への思慕にもだえる悩みは変わらない。27歳までの青春の懊悩を綴る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
sheemer
13
画家のエッセイ集。大正生まれで渡仏し具象から抽象へと移り、帰国してからは藝大等で指導したとのこと。前半は彼に関係した人物評が主体。紹介されている人物には知っている人もいない人もいるが、語りが率直であけすけ、ためらいがなく、実際を知っている者が語るリアリティにあふれている。 後半は自叙的なもので尻切れトンボな感じのものなど様々。 文章がしっかりしていて魅力的。「モデル」というエッセイが自分は一番好きだ。 昭和初頭の画壇・画族のイメージを伝える面白い本だと思う。2023年お亡くなりで日曜美術館が特集していた。2023/11/20
Yuko
7
<少年期を過ごした福岡の人たち、自らの戦争画の傍らに立つ藤田嗣治、戦後の混沌期に集い交わった画家や詩人、パリで知った椎名其二や森有正、義弟・田中小実昌、同級生・駒井哲郎…それぞれの時、それぞれの場所でめぐり会った人の姿と影を、画家にして名文家の筆が甦らせる。> 鋭い人間観察からなる文章の旨さに舌を巻く。本人らが読んだら決して愉快ではなかろうが、あとがきにて弁明されていた。「そんなに深読みしてもらっては困る。しかし、私が書いていることはみんな本当だ。私の記憶に間違いなければの話だが。」 2019/08/03
tktcell
5
僕は野見山暁治という人物について知らない。ただその名を耳にし、1枚の絵を眺める機会があったからこそ、手に取った1冊。彼にまつわる人々と出来事が野見山暁治という人物をカタチ作っていた。戦争、病気、モラリスト、妹の家の居候、絵描きという職……。ひとつひとつのエピソードがまるで、筆でなぞる1本の線のように、彼の姿を描き出す。臆病な少年で、少し頑固な老人で、自分勝手さとそれと相反するような後ろめたさを秘めた人物。もう何枚か絵を観てみたいと思った。2015/12/08
timeturner
4
戦中戦後の日本とパリで出会った仲間の画家や詩人の肖像を絵筆ではなくペンで鮮やかに描きだす。どの人も癖が強く世間の基準から外れてるけど、安易に裁いたりはしない。人間は一枚のレッテルでは説明できないことを身に沁みてわかっているのだ。2024/10/28
kekobus1989
1
このおじさんが話す昔の話が大好きだ。文体は全然平易ではないしどっちかというと強面。でもどの話にも語られる景色への愛着があって、いつまでも聞いていられる。2019/09/15