内容説明
「えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい」「「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい」──この世界への鋭敏で繊細なまなざしから生まれたやさしくつよい言葉たち。彗星のように短歌界にあらわれ、2009年、惜しまれながら二十六年の生涯を閉じた夭折の歌人のベスト歌集が没後十年を機に未発表原稿を加え待望の文庫化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ただいま蔵書整理中の18歳女子大生そっくりおじさん・寺
98
本が好きだと、読んだ事が無くても名前ぐらいは知っている物書きというのはたくさんいる。自分にとって目ぼしい存在の仕事はだいたい把握できていると思っていた。しかし先日本屋さんで本書を見かけて驚いた。こんな題名の本がある事も、この本が歌集である事も、この著者の事も、この著者が2009年に夭折している事も。きっとかつて名前ぐらい見て気にならなくてそのまま忘れた作家なのだろう。本屋さんに行って良かった。偶然が無いと気付けなかった。気付けて良かった。この短歌は本当に素晴らしい。優しい。こんな優しい魂がもういない。冬。2020/11/23
藤月はな(灯れ松明の火)
89
題名に惹かれて図書館から借りました。まるで子供の泣き声のようなこの短歌は意外な着地点がありました。この歌集には、生まれ落ちて世界を徐々に知覚していく子供のように瑞々しい感性と表現、お母さんが子供に優しく、話しかけるようなリズムがある。そして歌たちを読めば、『ラ・ジュテ』のように停止画の結び合わせによって浮かび上がる映像を見ているかのような絵が浮かんでくるのだ。まさに心洗われるような歌集でした。2019/05/10
コットン
79
未発表作品(短文、詩、俳句)を含んだ笹井さんの短歌集で①ピュアな感性が充満し、②気分の良いユーモアが漂う。『葉ね文庫』さんで勧められ、初めて買った短歌集が彼のだったから、短歌がより好きになった。今回の短歌集では①:「切れやすい糸でむすんでおきましょう いつかくるさようならのために」「ひきがねをひけば小さな花束が飛びだすような明日をください」②:「いま辞書とふかい関係にあるからしばらくはそっとしておいて。母」「雪であることをわすれているようなゆきだるまからもらうてぶくろ」。旅立たれてから十年になるんですね。2019/02/27
harass
72
26歳で逝去した歌人の作品集。解説穂村弘。透明で優しい。「暮れなずむホームをふたりぽろぽろと音符のように歩きましたね」「ああそれが答えであった 水田にまったいらな空の青」「大切に仕舞っておいた便箋に文字が生まれゆくのをみてた」「くちびるのふるえはたぶん宝石をくわえて旅をしていたからだ」「午前五時 すべてのマンホールのふたが吹き飛んでとなりと入れ替わる」「ゆきげしき みたい にんげんよにんくらい ころしてしまいそうな ゆきげしき」2022/04/24
アマニョッキ
65
笹井宏之さんがすきです。ゆるぎないわたしの癒しです。「拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません」「あたたかい電球を持つ(ひかってたひかってました)わかっています」「水仙にアイスピックを突き立てて祈りのような言葉を吐いた」いまなお多くの人に愛される笹井さんの魅力は「透明感とあたたかさ」。解説はみんな大好きほむほむです。2019/03/11