内容説明
純粋な「形式性」と起源なき「名前」の流通によって現実が作られる時代。それは、いかにして生まれたのか──。19世紀中葉、一組の義兄弟が陰謀を企てる。兄の名は、ルイ=ナポレオン。フランス皇帝ナポレオン1世の甥である。かたや父親を異にする弟の名は、ド・モルニー。「私生児」にして、のちの内務大臣・立法院議長である。権力奪取の計画は首尾よく運び、ここにフランス第二帝政の幕が上がることとなる。希薄で、シニカルな相貌をまとって……。ド・モルニーが遺した二つのテクストを読解し、マルクスが見落としたものを軽やかに描く、著者最初の書き下ろし作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かんやん
27
ナポレオン3世は如何にクーデタを成功させたのか?伯父(ナポレオン)とそのパロディとしての甥というマルクスの視点を批判して、嫡子(3世)と私生児(義理の弟ド・モルニー)の協力関係を取り上げることで、全く新しい視野が開けてくる。ド・モルニーの署名のある二つの文書、クーデタ時の「布告」(内務大臣として)とおよそ10年後の他愛のないオペラ・ブッファの台本(ペンネーム使用)を読み込み、近代とポストモダンの交差を浮かび上がらせる、およそ30年前の文化的パンフレット。そういえば、ポストモダンなんて言葉があったなあ、と。2021/07/03
しゅん
16
モダンとポストモダンが直列の歴史ではなく同時進行の並列であることをナポレオン三世の義弟ド・モルニーの短いテクスト二つから示す物語。オリジナルを示すはずの「署名」が、誰がかいたかわからないまま広がって法的権威が付与される。その人の内実よりも名前が価値を持つという今っぽい現象を19世紀中盤に見出す流れに快感。デリダ/サール論争の読解は『存在論的、郵便的』に先行する。それにしても、物語のあらすじと描写のバランス及びわかりやすさが圧倒的。「蓮實重彦難解じゃない」の思いを読むたびに強くする。2021/08/19
ラウリスタ~
12
蓮見ファンでもない若い読者がこれをどう読むか…。ルイ=ナポレオンによるクーデタの裏には、義弟ド・モルニーの名が見え隠れする。兄は国外で滑稽な道化としてナポレオン復活を図り、弟はオルレアン派に組し、体制の内部で出世する。夢想家の兄と現実主義の弟、相容れぬ二人が手を組み、クーデタを告げるパンフレットを極秘裏に印刷、各地に輸送する。そのパンフでのモルニーの内務大臣としての署名から、20世紀のオースティンvsデリダの行為遂行的言説に関する論争を引き出す。後半はモルニー作のくだらないオペレッタのクーデタ模倣性。2019/01/30
nagoyan
11
優。第二帝政を築いたルイ=ナポレオンの「義弟」ド・モルニーの二つの文書を題材に、第二帝政下に花開いた、凡庸で通俗的な文化と政治の「空気」感を抉り出す。第Ⅳ章「署名」で展開される議論は、ポストモダン的な言説が流行していた往時から遠く離れた今日においては、やや皮膚感覚として理解しがたいかもしれない。また、マルクスの有名な第二帝政評のためか、日本では第二帝政に対する評価は低い。その実、日本人が憧れるフランス的な文化・生活の多くはこの時期に作られた。本書は、この時代のこうしたいかがわしさを瑞々しく描く。2019/02/18
まふ
10
ナポレオンの弟ルイ・ボナパルトの嫡子ルイと私生児ド・モルニーという義兄弟がクーデターを起こし名のみの大統領であった兄を皇帝に担ぐ。ド・モルニーはド・サン・レミなる名前でオペレッタの脚本を作り、当時の大衆音楽家ジャック・オッフェンバックに作曲させて自邸で演奏させたという。しかも、その内容がなりすましの歌手を登場させるという内容であり、出自、成り立ちこれらすべてが今日的意味での「ポストモダン」的な仮想現実的世界であることに蓮實が興味を覚えたらしい。言われてみればなるほどという「面白さ」がある。2020/10/01
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