内容説明
「反体制運動ではなかった」,「竹槍や蓆旗(むしろばた)は使われなかった」――百姓一揆の歴史像は,研究の進展によって大きく転換した.なぜ百姓は,訴訟や一揆を通して粘り強く自己主張することができたのか.各地に残る「一揆物語」には,どんな思想が織りこまれているか.その独特のピープルズ・パワーから,近世という時代を考える.
目次
目 次
はじめに
第一章 近世日本はどんな社会だったか
1 近世社会像の転換
2 転換の時代に生きて
第二章 百姓一揆像の転換
1 『民衆運動史』と展示「地鳴り山鳴り」と
2 百姓一揆像の転換
3 ひとつのエピソードから
第三章 百姓一揆を読む
1 史料とは何か
2 百姓一揆の記録を読む(一)──『因伯民乱太平記』の世界──
3 百姓一揆の記録を読む(二)──『南筑国民騒動実録』の世界──
第四章 百姓一揆物語はなぜ生まれたか
1 一揆物語の構造
2 軍書とは何だったのか
第五章 『太平記評判秘伝理尽鈔』がひらいた世界
1 『太平記評判秘伝理尽鈔』はどのように広がったか
2 読者は『理尽鈔』に何を求めたのか──自己形成・政治常識・歴史叙述──
第六章 百姓一揆物語とは何だったのか
1 一揆物語の世界を支えているもの
2 『農民太平記』と一揆物語
3 百姓一揆物語と明君録
終章 「近世的世界」の終焉
1 百姓一揆物語のゆくえ
2 「仁政」のゆくえ
3 近世史研究のゆくえ
主要参考文献および史料
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
樋口佳之
38
百姓一揆を「非日常」として、「日常」と切り離すことに、私が違和感をもっている/近世日本は訴訟が普通に行われた社会である。領主に対する仁政的な恩義関係のなかに生きている人々にとって、困ったときに領主は救ってくれるはずだと考え、そのために訴訟するのはあたりまえの日常/領主側と百姓側の対応が、なんらかの理由でうまくいかないときに、百姓は強訴へ/この段階でも領主側がしかるべき対応をすれば、大きな騒乱にならず、犠牲者も出さずに穏便に済ますことも/それでも首謀者が極刑を含んだ責めを負う覚悟は必要だったのね。2019/03/23
田中寛一
25
江戸時代に起きた百姓一揆をその後に記録された資料を分析されていた。印象に残ったのが、「〇〇騒動記」「〇〇太平記」など軍記物や講談や読み物としての体裁でもあるということや、それらの結末にその後の仁政が行われたことの前触れ的な記述になっている、などの指摘だった。一揆後の「読み物」教材、小説や講談のように読み手・聞き手の関心を惹きつけるために「〜の生まれ変わり」的な表現も、そんな現れだと。京都の出版社によって増刷されあるいは写本されたという。一揆勢の持ち物(鉄砲・筵旗など)も演出があると。2019/05/15
yamahiko
18
一揆という事象がどのように物語に再構築されたか、近世の人々の行動規範はいかに形成されたかを、丹念にかつ幅広く資料を読みときながら明らかにしていく。充実した読書体験を味わえた。2019/05/06
fseigojp
16
近世とは、どんな時代だったか を問題意識においた名著2021/02/12
魚京童!
16
デモでしょ。デモのほうが平和的だけど、やってることは一緒でしょ。みんなで集まってエゴを通す。みんなこう思ってるって自分の思いを伝える。無理を通す。道理引っ込めさせる。為政者から見ればテロリスト。百姓から見たら英雄。難しいよね。私はどちらでもない。どちらの立場にも与しない。もうそんな時代じゃないんだよ。コロナで家から出られない世界なんだから。2020/03/06