内容説明
◆第10回 日経小説大賞受賞作!
第10回日経小説大賞(選考委員:辻原登・高樹のぶ子・伊集院静)を受賞したのは、古典的とも見える血をめぐる復讐劇を、仮想通貨交換会社というある意味で現在を象徴する場所を舞台に選び、人間が欲望にとりつかれ正気を失っていく様を描き出した本作。人間誰しも自制心で抑えている欲望が何かのきっかけで堰を切ってあふれだした時、必ず犯してはならない禁忌にふれる。そして、禁忌ゆえの抗いようのない魅力にとりつかれ人は墜ちていく。不正な会計操作、結ばれてはならない男女がおぼれていく恋とセックス、余計者を闇に葬る排他的なムラ社会……。
選考会で評価されたのは、作品、そして文章そのものが持つ強烈な身体感覚だった。“肉食系女子”という言葉があるが、ねっとりと濃密な文章は“肉食系”そのもの。「文学から身体感覚が失われて久しいが、その意味でも受賞者は希有な存在だ」(高樹のぶ子氏選評より)九州・福岡の土着性もうまく取り入れ、暗く陰鬱になりそうな題材であるにもかかわらず、カラフルなパッションが加味された力強い作品に仕上がっている。
物語の前半は、ある意味“よくある”女がほれた男のために身を落とす話が展開されていく。タイトルの「狂歌」は「戯れ歌、こっけいな歌、ひわいな歌」という意味。この“よくある”話にふさわしいが、それが初めから仕組まれたものだったとしたら――後半はまさに人間が欲望にとりつかれ「狂」う話に変貌する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケンイチミズバ
106
官能表現が下手です。ああああ、気持ちいいって読んでいて気恥ずかしい。直接的な状況説明の多さに文学センスが足りないのかとも感じる。税金を払いたくない若者より納税の認識すら低い若者の方が多数だろうし20代で税を重いと感じるほど若者はペイされてない。税金逃れの海外生活ってね、税は支え合うため、国の基盤なんだからこういう連中の利己主義は嫌いだな。外国でビジネスの話をしませんかというメモを渡されノコノコとカジノに出かける設定などもかなり無理があります。著者にはこのカテゴリーの取材や人生経験が足りないのかもしれない。2019/05/20
いたろう
70
主人公は、仮想通貨の取引所を運営する会社の女社長。仮想通貨を扱った小説と言うと、上田岳弘の「ニムロッド」を思い浮かべるが、「ニムロッド」では、確かに仮想通貨の採掘の話が出てくるものの、それ自体がストーリーに重要な影響を与えるものではなかった。対する本作は、幸田真音や橘玲のような金融の深い知識に裏打ちされた経済小説という訳ではないものの、仮想通貨の取扱いが、ストーリー展開上で、重要な位置を占めている。それでいて、物語の要は男女の情愛。そして、それぞれの奥底にあるものが分かった時、物語は全く異なる姿を見せる。2019/08/01
buchipanda3
60
派手でどぎついピンク色の表紙が目を引く、というより目を背けたくなるが、主張が強いことは確か。中身には、ねっとりと絡みつく文章で欲望と情念にまみれた物語が描かれていた。題材からお金と性愛の欲望に狂っていく話かと思ったら、裏に別の一面が隠されており、その存在を匂わせながら進むサスペンスタッチな展開を楽しめた。終盤には意外性は薄いが強烈なものが明かされ、主人公が見せていた狂歌めいた感情に合点。業欲と真摯、相容れないものを共に貫くことのもの哀しさも感じられたと思った後、最後のセリフに茫然とさせられて読み終えた。2019/02/24
aloha0307
20
さすが日経小説大賞作 たっぷりの読み応えでした☺ 主人公:きり葉 福岡のフリペーパー編集長から仮想通貨ファンド会社社長へ(佐伯さん 金融業界にかなりの素養とみました)...人間の美しき/醜き 善き/悪しき部分が真正面から塊となり、そのまま来るからたいへんな質量でした。短歌がペーソスとなり小説世界を彩ります。レッテルを安易に貼られるのは堪らないね(それを貼るのも同じ人間です)。key word「みをつくす」~その極限は、死ぬしかない まさに命がけなのですね。2019/04/20
かもめ
13
仮想通貨取引会社の雇われ社長を引き受けたが、通貨を持ち逃げされるが、欲に惑わされ身を焦がす物語。情熱的で芸術的ではあるが、読みづらい文章がモヤモヤとさせる。2021/08/12