内容説明
朽ちかけた貸部屋に我物顔に出入りする猫、鼠、虫たち。いつしか青年は、凄まじい〈部屋〉を自分と同じ細胞をもつ存在と感じ熱愛し始める――没後10年目に発見された色川武大名義の幻の処女作「小さな部屋」、名曲「アイル・クライ・トゥモロウ」そのままの流転の人生を辿る女を陰影深く描く「明日泣く」など12篇。戦後の巷を常に無頼として生きながら、文学への志を性根にすえて書いた色川武大の原質とその変貌を示す精選集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
showgunn
20
未発表曲やボーナストラックを集めたファン向けのアルバムみたいな印象を受ける特に統一感のない短編集。「狂人日記」で完成されるような狂気・幻覚が主題の小説は怖い、精神にダメージを受ける。SFものはやっぱりイマイチ。思い出話をサラッと書いてる時が一番良くて、やっぱりそれは色川武大の人を見る視点こそが自分が最も感じ入る部分だからであろう、と改めて思いました。2016/12/17
ねなにょ
17
当然のことながら、驚きや新しさのようなモノは感じられないけれど表題作、2作は面白かったかな。『眠るなよスリーピィ』は、ちょっと気分が悪くなっちゃった。2021/08/19
ふくしんづけ
5
「怪しい来客簿」と同じく、やはり著者自身の顔が濃く出てくる作家。転げるように生きて、死んでしまいたい。でもそうもいかないのだ。どこかで過去や人が顔を出して、時間の流れを止めざるを得ない。ちょっと作られてるかと思いたいところ、やはり実在したかという絶妙にリアルな人物造形。物凄く私小説的。その意味で「眠るなよスリーピイ」は異色なSF。けど、著者からすれば当時から地続きで感じることだったのかもしれない。妄想遊びに共感する「小さい部屋」何というわけでないが悪夢のような「鳥」哀愁とやりきれなさのある「男の旅路」等。2020/07/27
刳森伸一
3
幻想的なものからほとんどエッセイのような私小説まで、初期の作品から後期の作品まで幅広く収録。全部で12篇。個人的には表題作2篇と「ひとり博打」が良かった。特に、幼い頃、「ひとり博打」で描かれていたようなカード遊びを実際にしていたので、ひときわ感慨だった。2014/06/25
くるるる
3
本名で書かれた処女作という「小さな部屋」は人間から、生活からの逃避がまともな狂気と共に美しく描かれていた。他はかなり私小説的だと思われる博打関係のものが多かったがSF的だったり幻想的だったりと幅広く書ける人なんだろう。2011/07/07