内容説明
大正から昭和初め、働きつつ学ぶ青年・多喜二は、文学への熱情、人間を抑圧する社会への怒り、知り初めた恋の苦しみを、ノートに書きつけ雑誌に投稿した。虐げられる弱き者への優しい眼差しと、苦の根源への鋭い問いを秘めた、これら初期作品群こそは、29歳で権力に虐殺されたプロレタリア作家の多感な青春の碑である。86年ぶりに発掘された最初期の「老いた体操教師」、秀作「瀧子其他」を含む16篇を精選。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
8
「健」より。「村では一二三人の生徒が皆先生と一緒になって――先生と生徒の区別もなく愉快に勉強していた」(44頁)。少人数教育が理想的ではないか。少子化でもまだ30人学級とか言っている。「最後のもの」より。「貧乏な者に残されているものは『死ね』ということしかないらしい」(221頁)。酷過ぎる。現代のプレカリアートなのだが、生活保護カットはシビルミニマムを壊す。「瀧子其他」ではNecessary evilという必要悪が取り上げられる(243頁)。貧困は必要悪ではない。自己責任でもない。社会的責任と思われるが。2013/05/02
もん
2
社会に生きる弱者の存在、圧倒的なまでの格差、男性に蹂躙される女性。当時の社会の様々な問題が表象されている作品群だと思いました。作品の中に漂う諦念の雰囲気を払拭できるような社会に今なっているのか?現在を見つめる一つの視点になれば良いです。2009/11/02
和
1
弱者の苦しい、悔しい、畜生!でもどうしようもないみたいな諦観 その弱者っていうのも労働者ばっかりではなく、女性だったり家族を背負う人だったり子供であったり そういうところに目が向くところ(目を逸らさないというか)は初期から持っていたものなのかなあと思いました2017/02/13
みずいろ
1
弱い者に寄り添う視線は既にある。こんなはずじゃない、と訴える、哀愁漂う作品たち。老いた体操教師から売春婦まで、どんな苦悩も描ききるのだからすごい。2011/08/28
endlessworldsend
1
正義がせせら笑ってるよ2011/01/27