内容説明
父と母の愛を結びつけた砂絵を唯一のたよりに、父を求めて江戸に来たとみは、極道者の手で殺され、5人の男に回春のための仏なぶりにされる。美しい鈴の音が流れ、砂絵が届けられると、5人の男たちの家々に地獄図が繰りひろげられていく。怨念の炎が華麗なまでに燃上る、怪奇幻想の世界「砂絵呪縛後日怪談」、ほか5編。
感想・レビュー
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HANA
60
短編集であるが、どの話もどっぷりと血と精液で塗りたくられた地獄絵図の様相を呈している。舞台こそ江戸時代であるものの、殺害され死体を弄ばれた巡礼の復讐譚である表題作とか、死体を次々に薬に加工していく「恋車蓮華地獄」は当然であるが、報われぬ恋を描く「へのへの茂平次」一見人情噺の「継小袖」も濃厚にマゾヒズム、サディズムを含んでいて、どれも傑作「骨餓身峠死人葛」や「死屍河原水子草」にどこか通底するものを感じる。現代も江戸も舞台に変わりなく、性を通じて人間の闇と土俗の恐怖を描いて終わる所がない。いや、面白かった。2018/02/24
taku
19
野坂は時代小説のスタイルで人を描いた。人は他人の痛みには鈍い。自分の行為が正しいと信じるとき、卑しい欲望が発散されるとき、軽薄で残酷な利益のために他人を踏みにじる。相手が陥る心の闇など想像しない。その被害者も立場が移ると同じことをしてしまう。利己的であるのに情を大事に抱える。どぎつい描写もあるが、憐憫と虚しさの余韻を残す短篇集。人を描くなら性は避けられず、そこから逃げてはリアリティがない。特殊な性癖で攻めすぎな野坂だが、やはり人の表裏を描いたのだ。2017/09/18
澤水月
17
江戸の苛烈な身分制度を思い知らせ(本作読むまで未知だった被差別にまつわる言葉が非常に多かった)貧困と性の凄まじさ絡めた残虐地獄絵図。多くの男性にマゾヒズム嗜好。ラスト方外者淫斎は英泉が末期に来し方を思い返すが北斎ら狂気と天才の芸術家たちに比べ自身は狂ったフリ、性に溺れたふりをしているだけという諦念は野坂本人の(例えば赤塚不二夫ら)同時代人への思いも重なっているのだろうか。罵倒語卑語差別語溢れつつ読点で延々と流れるような独自の文体が心地良く、町田町蔵(康)に影響濃いなあ2019/02/28
三柴ゆよし
5
金目当ての極道者に縊り殺され、回春のための仏なぶりにされた女巡礼の怨霊が、胎児の姿に凝り固まって復讐を遂げる表題作をはじめとし、「奈落の氷人」、「恋車蓮華地獄」など、いわゆる因果物の色調濃厚な作品が多いので、これはさすがに時代がかったものと思いきや、意外にも現代小説として賞味出来てしまうのだから、やはり野坂昭如は異能の人だ。ストーリーテラーとしても破格だが、戯作調というのか、人によっては読みにくいこと甚だしいだろう変態的な文章に浸っているだけで、なんだか恍惚としてくるのである。2010/05/08