内容説明
雪の予感がする一月八日の早朝、小さな村から異変を告げる急報がもたらされた。駆けつけた刑事たちを待っていたのは、凄惨な光景だった。被害者のうち、無惨な傷を負って男は死亡、虫の息だった女も「外国の」と言い残して息を引き取る。片隅で静かに暮らしていた老夫婦を、誰がかくも残虐に殺害したのか。ヴァランダー刑事を始め、人間味豊かなイースタ署の面々が必死の捜査を展開する。曙光が見えるのは果たしていつ……? マルティン・ベック・シリーズの開始から四半世紀――スウェーデン警察小説に新たな歴史を刻む名シリーズの幕があがる!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
166
「ダイハード」でもなく「ダーティハリー」でもない、ごく普通の中年のよれよれのオッサン刑事が難事件に向かって身を投じ、解決する刑事小説です。この‘普通’なところを素晴らしいリアリティとして受け取れるか、平凡でつまらないととらえてしまうかで今作の楽しみ方や評価は大きく二分されると思います。自分的にはとてもリアリティある作品で、大きな流れやどんでん返しは多くないものの、とても丁寧に描き出している記述は素晴らしいと感じました。J・ディーバーのように立て続けに読むような作品ではないかもしれませんが良作と思います。2011/01/22
ケイ
149
刑事ヴァランダーシリーズ第一作。彼の、人間臭くて、無用な怪我ばかりするダメな男ぶり。妻に去られ、寝ている間にセクシャルな妄想に耽り、知り合った女性検事への好意を隠そうともしない。そして、そのだらしなさを部下達に庇ってもらい、頼れる友人には甘える男。逆にいえば、彼はしっかりした部下を育てる人なのかもしれない。「車を下りてください。私が運転します」と上司に言える部下。なんとも微笑ましい関係。そして、愛すべきリードベリ。彼がこの話を支えていたのは間違いない。こんな男達が警察官なんて、とても頼もしいこと。2018/06/17
ゆいまある
110
ミステリーってのは後半から面白くなるものだと思っていたが、出だしから最後までずっと面白い。横山秀夫のロクヨンやルメートルのようなジェットコースター展開。犯人が外国人らしいということから国の雑な移民政策や極右などデリケートな問題が絡み、すごい緊張感。面白さの中核はこの主人公の造形。妻に捨てられやけ食いして太って、泥酔して運転して捕まりかけて、好きな女性にセクハラして、怪我ばっかりして、ボロボロだけど一生懸命仕事してて。そんなヴァランダーについ感情移入してしまう。完璧でないヒーロー。そこがいい。2019/09/08
ちょろこ
94
雰囲気が最高、の一冊。やっぱり北欧ミステリは雰囲気が最高だ。この作品もプロローグ的な老夫婦のワンシーンが夜が明けきらない闇と静寂に融け合い、物哀しさを醸し出しているのがたまらない。先ずはここで心をがっつりつかまれた。主人公の中年刑事ヴァランダーの私生活も北欧ミステリお決まりの設定な気がするけれど、この、刑事らしからぬ行い、感情はどこにでもいるごく普通のひとりの人間として寄り添いたくなる魅力がある。今後の彼の私生活が気になる。シリーズをゆっくり追いかけたい。2018/09/21
コットン
91
あかりさんのおすすめ本クルト・ヴェランダー・シリーズ。スウェーデンの警察小説で同様の警察小説ではマルティンベックシリーズが思い浮かび、数十年前に既読だがマルティンベックシリーズのほうは章の終わりとかが詩的だったように記憶している。それに比べると現実の葛藤を描いている点が素晴らしい。例えば「ある日彼は発作的にレンナルプ老夫婦殺害事件の厚いファイルを思いっきり壁にたたきつけた。紙が床一面に散らばった。そのまま片づけもせず、長いこと床をにらみつけた。」2021/03/05