内容説明
戦時中、日本精神を鼓舞する作風で名をなした画家の小野。多くの弟子に囲まれ、大いに尊敬を集める地位にあったが、終戦を迎えたとたん周囲の目は冷たくなった。弟子や義理の息子からはそしりを受け、末娘の縁談は進まない。小野は引退し、屋敷に籠りがちに……。著者による序文を収録した新版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
Apple
73
語り手を経て触れる戦後の日本の風景は、とても鮮明に描かれていて、この本を読んでいて一番印象に残りました。瓦礫の山と化した場所もあれば、立派な家屋と庭を残しているところもあって、コントラストがよく描かれていたと思います。また、人物たちに根付く権威主義みたいなものが現代よりもかなり露骨で、時代を反映しているようでした。あえて語らせないことによって、語り手の思惑を演出している部分が見受けられ、作者の工夫がすごいものだと思いました。同じ作者の「日の名残り」とはまるで兄弟のような作品だと感じました。2023/09/19
優希
73
自らの信念と新しい価値観の狭間に揺れる曖昧さが印象的でした。戦時中の日本精神は戦後の世に通じないのでしょうか。培ってきたものを切り捨て、隠居する小野の精神はいかに辛かったことでしょうか。美しい文章だからこそより刺さるものがあると思います。2022/11/02
かっくん
61
画家の小野は戦時中に戦意高揚の作品を評価され、その世界では多少の影響力を持っていた。しかし戦後は戦争協力者と目される気配を察して静かに過ごしていたが、娘の縁談を機会に自らの過去と向き合っていくのだが・・・・ 特に劇的な何かが起こるわけではない。しかしどこかに穏やかにはなり得ない雰囲気を漂わせた作品。過ぎ行く時代と来るべき時代の相克に翻弄される一人の老人の呟きである。2024/01/03
優希
61
再読です。戦後の落ちぶれていく画家の物語と言っても良いかもしれません。戦時中、日本精神を描くと讃えられた小野ですが、終戦を迎え、周囲の目が冷たくなるのが刺さりました。時代があるのでしょうか。小野は引退し、籠もりがちになり、自分の画業について悩みつつ、自分の貫いてきた信念と新しい価値観の間で揺れているのが悲哀を誘います。美しい文章で冷たいものが描かれているのが痛みとして感じられる作品です。2023/04/23
催涙雨
60
テーマに関してはたぶん日の名残りと似たようなものだと思う。過去に対する悔恨はもとより価値観の変化とその狭間で揺れる心境は、戦後という境界線の可視化によってこちらのほうがだいぶ感覚的に掴みやすくなっている。時代の潮流による思想の正誤の認識という根本的な問題は戦前戦後という線引き越えて永遠に続くものであり、そのためこの作品は今もそれほどアクチュアリティを失わずに読者の感覚を刺激する。長年親しんできた感じ方や考え方が誤りとされる時代に踏み込んだときに、自分はどういうふうに思い、行動するのだろうか。2019/10/14
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