内容説明
西欧文学に100年以上遅れて出発し、そのエッセンスを学びながら追いかけてきた日本の近代文学。明治期の誕生以降、発展を続けているその歴史を、漱石、鴎外、露伴、谷崎、芥川、川端、三島、大江、石原らの代表的な作品を取りあげながら概観し、青春、恋愛、少年、心理、老年、歴史等々、「人生と文学」の断面から照射した、壮大かつ心揺さぶる精神のドラマ。博覧強記の小説家が遺した名著。
目次
はじめに
青春
恋愛
老年
少年
心理
感覚
家庭
社会
歴史
滑稽
西洋
おわりに
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
61
小説の方法論において、昔の作家は西洋文学に取材していたことがよくわかった。いま入手しにくい作品も多く紹介されているけれど、せっかく大学にいるんだからいろいろ読んでおきたい。大江健三郎の評価がとても高かった。2019/03/12
カブトムシ
21
歴史小説における「文体」の問題を考える時、やはり希有の成功を示している作品。井伏鱒二『さざなみ軍記』。これは寿永年間の平家没落の有様を、一門の少年(知盛の子供という想定らしい)が書き残した逃亡記を、作者が現代語に訳してみた、という体裁になっている。勿論、純然たる空想の産物であるが、しかし平家の逃亡する瀬戸内海の沿岸の風物は、その地の出身の作者の熟知するところであって、本当に当時の少年貴族の日記を、その日その日の記事を追って読んでいるような錯覚におちいらせるように、精彩に巧妙に描き出されている。(p223)
カブトムシ
18
(夏目漱石)『三四郎』は、非常に成功した小説で、一時、地方出身の大学生を世間で「三四郎」と呼ぶくらいになった。この小説が文学的に「成功」したのは、作者自身がもう青春の混乱を脱して、四十歳の成熟期に入ってから書いたせいもある。(p14)私は外国文学はほとんど読んでいないが、ジッド(アンドレ・ジード)というフランスの小説家の『狭き門』という青春小説も作者が四十代に書いたものだそうである。さらに私は長編小説よりも短編小説を好むが、司馬遼太郎は講演テープの中で、漱石作品の中で「『三四郎』が一番好き」と述べていた。
naotan
11
この方面は多少知ってるつもりでいたけど、初めて名前を見る作家もいて読んでみたくなった。でも、夏目漱石以前の文体を読みこなせるかな。2022/09/02
織沢
8
初めての中村真一郎。紹介される小説の大半が未読のものでしたので、所々「小説を読んでからもう一度この項を読んでみたいな」と思う部分がありました。著者は学生時代、膨大な数の本(小説に限らず)を耽読して来た方なので、その読書経験から繰り出される近代小説史はバリエーションに富んだ読書案内としても活用できそうな印象でした。2019/01/31