内容説明
慟哭の夜から救済の光さす海へ。
3・11後のフクシマを舞台に、鎮魂と生への祈りをこめた著者の新たな代表作。
ダイビングのインストラクターをつとめる舟作は、秘密の依頼者グループの命をうけて、亡父の親友である文平とともに立入禁止の海域で引き揚げを行っていた。
光源は月光だけ――ふたりが《光のエリア》と呼ぶ、建屋周辺地域を抜けた先の海底には「あの日」がまだそのまま残されていた。
依頼者グループの会が決めたルールにそむき、直接舟作とコンタクトをとった眞部透子は、行方不明者である夫のしていた指輪を探さないでほしいと告げるのだが……。
巻末に著者によるエッセイ、「失われた命への誠実な祈り(文庫版あとがきに代えて)」を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
s-kozy
71
裏表紙にある本の紹介文に「著者の新たな代表作となる」と書いてあるのも納得の作品。あの震災から4年半、深夜に海に潜り被災者たちの遺留品を回収するダイバーの物語。海底には津波にさらわれた町が残されていた。小説だからこそ描きうる犠牲となってしまった人の無念、残された者の後悔・罪の意識。なぜこんな思いを抱えながらも生きていくのか?人が生きていくには、どこかに希望が必要なのでは?「さすが天童荒太」と唸るしかない素晴らしい小説だった。2019/11/01
rico
58
月の輝く夜、あの事故で立入禁止となった海に密かに潜り、波に飲み込まれた人々の残滓を探し求める舟平と彼を取り巻く人々の想い。物語としては薄い感じもする。しかし、何度も現地を訪れ「書かせていただきます」と祈った作者の真摯な姿に、心揺さぶられずにはおれない。人の気配が消え、月明かりの中その痕跡だけが遺跡のように佇む光景は、未曾有の災害と人が誤った選択を重ねた結果であっても、息をのむほど美しく、そして哀しい。あの日から8年。多分何も終わってはいない。2019/03/08
カブ
50
心の真の部分がずっしりと重い読後感です。震災後の月の明るい深夜、立ち入りが禁止されている海に潜り、被災者の遺留品を回収する舟作もまた、津波で両親と兄を無くしている。潜水の描写は息が詰まるようで、苦しい。震災後8年が経ったが復興はまだまだなのだと思った。2019/03/28
JACK
37
☆ 東日本大震災の津波で海に沈んだ遺留品を被災者からの依頼で回収する舟作(しゅうさく)。原発事故で汚染され、立ち入り禁止となった海には、明るい満月前後の夜で、波が穏やかな日しか潜ることが出来ない。そんな彼の前に、亡くした夫の指輪を探さないでほしいという女性が現れる。彼女の真意は…。舟作が無理して潜ろうとした際に、彼を引き留める何者かの声が聴こえるシーンは涙なしには読めませんでした。「戻れ、戻りなさい、何をしている、せっかく助かった命なんだぞ、お前を待っている人がいるだろう。」ここ数年で一番泣いた本です。2019/04/19
西君04
27
東北大震災のその後、今生きている人は今の自分に納得していない、後悔している、自身の代わりに死んだ人がいる、あの時自分があーしなければ、あの人は生きていた。最愛の人の死んだ証拠がなければ、前向きに生きるための選択ができない。舟作自身も悩みながらダイビングして遺品を持ってくる。そして生への渇望、それは性への渇望でもあった。人間の生きるとは何か、大災害の後、残されたものの心の傷は、癒えるものではなく一生傷口を何かで隠していくもの。あとがきも著者の真摯な思いが伝わり良かった。2020/08/07