内容説明
「人間はみな死ぬる。解り切ったことである。然し誰しも直ぐ死ぬるようには考えていない。」(「せみと蓮の花」)――老境の童話作家が、過ぎ去った起伏の多い人生と、なつかしい人々への愛憎こもごもを、昔語りにも似た闊達自在さで描いた10篇。幼少期の思い出、肉親との葛藤、師の鈴木三重吉、小川未明のことなど、〈童心の文学〉といわれた譲治の心の陰影が、ユーモアに包まれて独得の味わいを醸し出す。
目次
せみと蓮の花
三重吉断章
二十の春
母
遠い昔のこと
魔性のもの
戸締まり合戦
こわがり屋
昨日の恥
昨日の恥 今日の恥
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mm
26
過去を振り返れば10年1日のように感じられる事もあるのに、10年後に死ぬと想像すればそれは途方もなく遠いことのように感じられる。。という感じのことが、書き出しに書いてあって、まず、ここにガッテン・ガッテンいたしました。自分の子どもの頃の思い出、師匠とのやりとり、妻のこと、過去の小さな犯罪等々。今だから言えること、死を意識したからわかったことという含みが、ユーモアにもなり率直さにもなっている。妻は多分自分に隠しているものがあって、それをキツネに貰った宝珠の玉か?天狗の団扇か?と考える譲治は天性の童話作家?2018/06/10
YO)))
19
「吾は窮鼠 文学の猫を噛まむ」.『昨日の恥 今日の恥』,老いの身内に小便を詰まらせて,便所へ行き窓から眺むれば,二人立ち小便の小学生.それを見て「何と美しい、何と勢の良い放水でしょう。それは銀色にキラキラ光っていました」と….陰=死の傍らから生の光の眩しさを伺うその眼差しの,歪みのなさ.美しい.2014/09/03