内容説明
オハイオ州の架空の町ワインズバーグ。そこは発展から取り残された寂しき人々が暮らすうらぶれた町。地元紙の若き記者ジョージ・ウィラードのもとには、住人の奇妙な噂話が次々と寄せられる。僕はこのままこの町にいていいのだろうか……。両大戦に翻弄された「失われた世代」の登場を先取りし、トウェイン的土着文学から脱却、ヘミングウェイらモダニズム文学への道を拓いた先駆的傑作。(解説・川本三郎)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ペグ
85
ウィング・ビドルボームは両手で、たくさんのことをしゃべった。その細くて表情豊かな指、常に活動的でありながら常にポケットのなかか背中に隠れようとする指が前に出てきて、彼の表現の機械を動かすピストン棒となる。ウィング・ビドルボームの物語はこの両手の物語である。〜「手」の一節。 印象的なこの短編が好きでした。2018/08/29
ゆのん
81
米文学の金字塔。簡単に言うとワインズバーグという町の住人達の話。読んでいると個性豊かというかクセが強いというような住人ばかりのように思えるが、自分や周りの人達が普段の生活でふと感じる事や思い悩む事と大差ないように感じた。遠くに感じる理想や思い通りにならない現状、孤独や寂しさ、憎しみやねじれた思いなど。人間のネガティブな面を再認識させられた気がする。だが、何故か読後感は悪くない。2018/07/11
マエダ
69
「いびつ」な人達の物語。人間が様々な衝動に左右されること、合理的には説明できない人間の行動を描き出している。素晴らしい一冊。世界の不条理や人間の暗い部分を剥き出しにしているが誰しもが理解できる不変の文章。2018/11/24
ちゅんさん
48
ワインズバーグというアメリカ中西部の架空の田舎町を舞台にした群像劇であり連作短編。少し変わってたり心に孤独や闇を抱えた人たちが主役。訳者は彼らを“いびつな者たち”と表現した。まさにその通りであり、そのいびつな者たちが悩み迷い苦しむ。そして合理的には説明出来ない人間の衝動を生々しく描き出している。でも読み終えたあとなぜか少し穏やかな気持ちになる。自分も彼らと同じ部分を抱えているからかもしれない。のちのヘミングウェイやフォークナーに影響を与えたといわれる傑作。これはまた読み返したい2025/05/02
えーた
48
舞台はオハイオ州にある架空の町・ワインズバーグ。南北戦争以後、産業革命が本格化した米国では、これまでの牧歌的な生活や価値観が徐々に失われてゆく。著者はそんな時代の変化についてゆけなかった「いびつな」人々の孤独、不安、疎外感などを、淡々と、時にエキセントリックに、しかし限りない愛着をこめて克明に描いてゆく。どれもとても寂しく切ない話が多かったが、最後はこの物語の主人公の青年の恋が成就する話で、「この寂しい場所に来たらこの人がいた」という一文にとても救われる思いがした。レイ・ブラッドベリが絶賛した名作である。2018/10/01