内容説明
事故死した編集者が直前に撮影した夜の海の写真。そこに写る波間に漂う突起物を拡大すると……表題作はじめ、シャッターを切ると震災犠牲者の霊が写るようになったカメラマンが、死者が入るといわれる温泉で驚愕の出来事に遭遇する「さるの湯」、昔のアルバムのどの写真にも存在する謎の少女の正体を探る「あの子はだあれ」など、みちのくを舞台にカメラに忍び込む戦慄の世界を描く作品集。(解説・東雅夫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
109
写真を主題にしたホラー色の強い短編集。これは非常にお勧め。怖い話もあるのだが、切なさや優しさが勝っており、胸に染み入る物語ばかり。特に東日本大震災で命を落とした大勢の人達の鎮魂の意味が込められた作品が多くて、表現者としての作者の姿勢に心を打たれた。例えば「合掌点」の結末はぞっとするが、あの震災で家族を亡くした人たちを慰めたいと言う作者の気持ちを強く感じた。一番の傑作は冒頭の「さるの湯」で、これは涙なしには読めない。ここで描かれる死者を癒す温泉は東北のどこかにありそうだ。2018/07/08
★Masako★
78
★★★+ホラー祭り4作目♪写真やカメラに纏わる不思議な話を集めた怪談短編集。怖さは控え目の切ない話が多かった。舞台は作者が生まれ育ち今も住んでいる岩手。作者にとっても東日本大震災の衝撃はかなりなものだっただろう。前半の話にはそれがよく表れている。特に大震災で亡くなられた人々へ鎮魂の思いで書かれた冒頭の「さるの湯」は、温かく切なくホロリとさせられて秀逸!魚眼レンズを通して見た世界は…ぞっとする話「ゆがみ」、誰も撮ったことのない写真に捕らわれた男の話「遠野九相図」も良かった。読みごたえのある良作な怪談集♪ 2018/08/31
おかむー
76
タイトルのとおり、写真にまつわるホラー短編集ではあるけれど、著者の趣味がかなり反映されているようで、カメラへの蘊蓄がハンパなくて置いてきぼり感もなくはない。『よくできました』。九篇中、最初の三篇は東北の震災が背景となる物語。逆に後半は東北在住の作家を主人公にした連作調になっているが、写真と小説によって表現できるものとその限界が主人公によって語られる部分は著者自身の想いを代弁させているのかなと思われる。全体に都市伝説めいた構成で恐怖感よりもの悲しさを感じさせる作品ですね。2018/10/28
sin
68
自分達が目にしている世界は果して見たままのものなのか?脳内で認識された映像はあくまでも自分達それぞれの主観的イメージに過ぎないのではないだろうか?だとすると写真は主観で捉えられた風物を客観に置き換えて記録しているのかも知れない。そして改めて写し出されたものをつぶさに眺めれば…そこに普段は見落としていたこの世の隠された真実が刻み込まれていることに気付かされるのかも知れない。2018/08/02
HANA
67
写真に関するホラー短編集。写真を趣味とする著者らしく、どの話にもその知識が十全に生かされているものばかり。本格的な怪談から震災に関するジェントルゴーストストーリーまで幅広く収録されている。後者を読むと怪談が即ち癒しということが実感できるし、著者があの震災にどう向き合ったのかが真摯に感じられる。「さるの湯」冒頭はそれが特に顕著。小説と写真が逆の向きというのは面白い指摘。本書中の白眉「遠野九相図」はそのアイデアが忘れがたい印象を残す作品だし。現実を切り取りながら現実離れした写真の魅力が感じられる一冊であった。2018/07/15