内容説明
理性と感情がみごとに調和した、清澄な文体でつづる傑作短篇集。巡る春に託して老女の家へのこだわりを描く「春」、死別したはずの母親についての怖ろしい疑惑が湧き上る「花の下」、娘を中心として家族全体で死にゆく母を看とる「去年の梅」の他、「ありてなければ」「迎え火」「夜の明けるまで」「春過ぎて」「市」「降ってきた鳥」「湖」の秀作10篇を収録した。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
101
傑作短編集。読まれていないのが残念だ。一番感心したのは、一人の作家が書いたとは思えないような多彩な傾向の作品が収録されていることだ。冒頭の「ありてなければ」は前衛的な内容で、文章に勢いがある。「夜が明けるまでは」は、向田邦子が書きそうな切れの良い短編小説。「市」は他の収録作品とは異なり幻想文学的味わいがある。一番好きなのは「湖」。わずか10ページ程度の短編だが、人間の生と死、生きることの哀しみと喜びを鮮やかに描いて深い余韻を残す名作。最後の方で登場人物の2人が見る湖と鷺草の描写が美しい。→2016/12/21
こばまり
47
穏やかで麗かな表題に反して描かれる生のくるしみ、死のくるしみ。そっと差し出される情景に眼を見はり立ちすくむ。 それは私が小説を読む大きなモチベーションの一つだ。2017/04/07
橘
10
何十年と過ごしてきても忘れられない出来事の数々でした。心にずっと凝りとして残っていたりするけれど、だからといって簡単に誰かに話せるような事でもなく……生きていく、ってこういうことなんだなと思います。「静かな話というのは動きのない話ではない」というような著者の言葉も印象的でした。2024/03/29