講談社文芸文庫<br> 管絃祭

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講談社文芸文庫
管絃祭

  • 著者名:竹西寛子【著】
  • 価格 ¥1,045(本体¥950)
  • 講談社(2018/12発売)
  • ポイント 9pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784061975590

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内容説明

有紀子の同級生の夏子や直子は、「広島」で爆死した。夏子の妹は、4人の肉親を失う。皆、その後を耐えて生きる。沈潜し耐える時間――。事物は消滅して初めて、真の姿を開示するのではないか、と作者は小説の中で記す。夏の厳島神社の管絃祭で、箏を弾く白衣の人たちの姿は、戦争で消えた「広島」の者たちの甦りの如くに見え、死者たちの魂と響き合う。広島に生まれ育った作家が「広島体験」を描いた、第17回女流文学賞受賞作。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ヴェネツィア

270
タイトルは宮島で陰暦6月17日に行われる管弦祭からとられているが、それは小説の末尾にのみ現れ、それまでの回想の物語に対する鎮魂歌となっている。小説全体は有紀子を一応の主人公としつつも、彼女の周縁のさまざまな人々の戦中、戦後史が編年体風にではなく、自由な時間軸の中で語られてゆく。特に戦前、被爆前の広島の地名が限りない愛着のもとで語られるが、そこに共感できれば(たとえ広島の地を知らなくても)しみじみとした物語として受け止めることができるだろう。これというプロットがないのだが、そこがまたこの小説の価値なのだ。2013/10/10

buchipanda3

102
「先程まであたりを彩っていた夏の色という色が脱けて、全く遠望のきかない影絵の世界が出現した」。広島で母と弟と共に被爆した有紀子。生きながらえた彼女は三十年の後に母を看取る。忘れられない日から定まらない彼女の心と同じく、時と場所を彷徨うかの家族や身近な者たちの記憶が数珠つなぎのように紡がれる。亡くなった者、残された者、その苦しみは時を経ても解き放たれない。生き続けた者には死への悼みと生への戸惑いが残った。体験者しか分からぬ複雑な心が、管絃の乱声が響く生い立ちの場の情景や暮らしを思い返す言葉から伝わってくる。2023/08/22

たま

48
1978年発表の竹西寛子さんの本。14の短い章から成り、取り上げる人物、時期、語りのスタイルは章ごとに変わるが、原爆投下前の広島、投下後、戦後の変化が緩い繋がりの中に浮かび上がる。とくに戦前の市内を流れる川と川沿いの人々、商家の暮らしの描写はきめ細やかで美しい。中心人物は戦中を女学生として過ごした村川有希子だが、彼女の実家の貸家で暮らしていた千吉と、彼女の学友の妹藤岡秋子の一人語りが哀切。最後の章で有希子は宮島の管弦祭を訪れる。私はこの夜の船の祭りを知らなかった。読者も有希子とともに鎮魂の祈りに誘われる。2022/08/15

なつのふね

13
作者本人と思われる村川有紀子の物語。広島で かなり裕福かつ知的な家族だと想像できる。章ごとに時間が現代になったり 過去に遡ったりしながら 広島原爆投下の前後の当地の人々の心模様を詳細に表している。原爆を投下された市民の悲惨さを 克明に記すという感じではなく 日本の地方都市で平和に年中行事を行い 川や海や神社や桜に囲まれて暮らす描写が多く それゆえにいっそう心の奥で受けた 原爆のダメージが浮かび上がってくる。大変 中身の濃い小説で 二度三度 折に触れて読み返したら また 違った感想が生まれてきそうだ。2017/12/03

モリータ

12
◆著者は1929年生(存命)、'45年当時広島高女に在籍、2月に父が急死。学徒動員されていたが、当日は体調不良で自宅(皆実町、爆心2.5km)にいたため助かる。被爆死した多くの級友の存在が作品の基調となる。◆本作は'77年『海』に連載、'78年7月刊。視点人物(焦点化)や時代、語り方のかなり異なる連作短篇形式。視点人物は筆者に最も近い「村川有紀子」とその近縁としつつも、その章のみ登場する人物の場合もある。語り方は一人語り(2,13章)、書簡(6章)、ほぼ風景描写(5章)など多彩。2021/10/13

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