内容説明
世界的に知られる童話作家ハンス・アンデルセンの最初の自伝的長編小説『即興興詩人』は、日本では森 外の典雅な文語訳で広く知られています。本書はその粗筋とともに、本文の一部の朗読を音声データで楽しめるものです。アンデルセンはデンマークの貧しい靴屋の子として育ちましたが、有力者の後援により欧州旅行をすることができ、イタリアに滯在した折、自らの経験などを背景に織込んでこの小説を書きました。時代は十九世紀初頭、日本でいうと幕末の文政の頃にあたります。
『即興興詩人』は、ローマの貧しい家に生まれ、思いつくままに詩を紡ぐ即興詩人になることを夢見ていた主人公アントニオ少年の、歌姫アヌンチヤタへの想いなど、様々な数奇な人生経験をたどったもので、発表されるや歐州各国で大きな反響を呼びました。ドイツ滯在中の森 外がそのドイツ語訳を読んで大きな感銘を受け、帰国後、勤務のかたわら十年をかけ典雅な文語文として訳しましたが、その訳文が日本で大きな反響を呼び、かなりの作家や知識人にとって詞藻の種となり、また旅行記とも呼べるところから、伊太利旅行の案内書ともなりました。