内容説明
大阪商人の“市井文化と歴史”を描いた秀作。
熟年主人公の「私」は大阪府出身ながら生家は郊外にあり、家庭を持ってからは東京暮らしとあって、大阪の街について、実はよく知らない。そこで「私」は妻の従弟にあたる「悦郎さん」に会い、昔日の大阪を語って貰おうと会いに出かける。
明治・大正・昭和の3代にわたる大阪商人の日常を丹念に聞き取ることで、“水の都”の移り変わりが匂い立つように浮かび上がってくる。淡いファンタジーの如く、さまざまな市井の人々の営みが生き生きと描かれた“第三の新人”庄野潤三の秀作だ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こうすけ
27
庄野潤三はいい。もはや面白いかどうかという次元ではない。大阪の昔の市井の暮らしを、親族たちから聞き取り、その過程も含めて書き記した物語。丁稚奉公ってたまに聞くけど、なにをするものなのか、具体的に知れて良かった。現代人には耐えられない暮らしだ。「必ずしも商家に限らないが、古い大阪の街なかの空気を吸って大きくなった人に会って、いろいろ話を聞いてみたらどうだろう。おじいさんかおばあさんのいる家なら、なおいい。」という書き出し。よく読むとすごい始まりだ。庄野潤三展を今度神奈川でやるらしいから行きたい。2024/03/06
ゆかっぴ
3
生活スタイルが変わってなかなか落ち着いて本を読めなかったけど、そんな中で少しずつ読めた一冊。少し前の時代の人たちの丁寧な生き方がいいなと感じます。真似は出来ないけど今の気持ちを大事にしたいと思います。2020/07/02
MUSHI MUSHI
2
あまりに違う時代の話なのに何んでこんなに読み易いのだろう 選び抜かれた文章ではなく普段の会話がそのままのような感じ 人と人の付き合い方 手紙での文章のやり取り LINEでもできそうですが この日本語がでてこない気がします 2021/05/29
みや
2
主人公(作者)が、親類縁者を頼って明治・大正・昭和期の大阪商人のしごとや日常生活のほか、大阪中心部の様子を取材するルポルタージュ風小説。丁稚奉公を長年経験し、艱難辛苦を乗り越えて一人前になった商人たちの言動からは、如才なさとともにある種の「凄み」が感じられる。庄野氏50代半ばの作品。往時の文学の薫りは期待しまい。2019/09/19
nido
1
▼主人公が親戚の昔語りを通じて明治期以降の大阪周辺における暮らしに思いを馳せる、という内容。随筆のような語り口が読みやすく、すっとした読了感の小説。品格と活気。▼旅先の景色一つ一つに目が奪われる感覚を彷彿とさせる文章が印象的でした。朝の支度を終えた後、お茶菓子と一緒に読みたい一冊。2020/12/21