内容説明
「上下関係」も「勝ち負け」もないゴリラ社会。厳格な序列社会を形成し、個人の利益と効率を優先するサル社会。個食や通信革命がもたらした極端な個人主義。そして、家族の崩壊。いま、人間社会は限りなくサル社会に近づいているのではないか。霊長類研究の世界的権威は、そう警鐘をならす。なぜ、家族は必要なのかを説く、慧眼の一冊。 ・ヒトの睾丸は、チンパンジーより小さく、ゴリラより大きい。その事実からわかる進化の謎とは? ・言葉が誕生する前、人間はどうコミュニケーションしていたのか? ・ゴリラは歌う。どんな時に、何のために? その答えは、本書にあります。
目次
はじめに
第一章 なぜゴリラを研究するのか
第二章 ゴリラの魅力
第三章 ゴリラと同性愛
第四章 家族の起源を探る
第五章 なぜゴリラは歌うのか
第六章 言語以前のコミュニケーションと社会性の進化
第七章 「サル化」する人間社会
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ばりぼー
52
ゴリラは喧嘩をしてもじっと見つめ合って平和的に和解し、序列を作らないという特徴があるが、サルは勝ち負けを明確に作り出し、純然たるヒエラルキーを構築する。人間社会はどちらの要素も備えているが、個人の利益と効率を優先する現代の人間は、平等を重んじるゴリラ的価値観を無くし、勝者を讃えるサル的階層社会に突き進んでいる。「家族」という形態が人間社会の根幹をなす集団単位であり、コミュニケーションのための「共食」の習慣が消え、「個食」に取って代わられると家族は崩壊、人間性は喪失される…。示唆に富む良書です。2016/01/18
としちゃん
34
著者は日本の霊長類研究の第一人者で、京都大学総長。平等よりも勝ち負けを優先するサルの世界と、群れの中で序列を作らず、勝つとか負けるという概念がないゴリラの世界。今、人間社会は勝者にならないといけないかのような意識が蔓延し、勝者が弱者を支配するサル型の社会になっていると、この本は警告する。もともと人間は、見返りを求めず弱いものには手を差し伸べ、何かをしてもらっらお返しをし、そうして集団の中できちんと居場所を持って生きていく動物であり、そうやって進化してきた。その事をあらためて思い出させてくれる本でした。2017/05/26
Speyside
32
大晦日の村上ラヂオに出演されていて、話がとても面白かったので、著書を読んでみる。前京大総長にしてゴリラ研究の第一人者である著者が研究の変遷を紹介しながら、ゴリラを鏡に人間について考察するエッセイ。ゴリラとヒトは共通の祖先を持ち1200〜900万年前に枝分かれした近縁種。なので、ゴリラの生態を解明すれば初期人類の特徴、ひいては現生人類に引き継がれた人間性の根幹のようなものを解明できるのではないかという視点がまず面白い。ゴリラはサルと違って集団内に序列がなく、優劣の意識がないらしい。人間もゴリラに学ぼなきゃ。2021/02/09
空猫
22
霊長類の社会を調査することによって人類学を研究したもの。家族とは食を分け合い、同じものを一緒に食べる事で始まる関係である。それが無ければ社会での平等はありえない。ゴリラは家族を作るが共同体を作らない。サルは序列のある共同体を作るが家族のように愛着はない。そこには効率や利便しかないのだ。ヒトは家族と共同体を持つ唯一の動物である。個食、独居が増えて[サル化]している現代日本に警鐘を鳴らす一冊。面白い視点で楽しめた。講義を聴いているようなわかりやすい文章。2016/09/14
Sakie
21
ゴリラおもしろい。同じ霊長類でも、ゴリラとサルと人間では性質も社会性も違っている。ゴリラは優劣のない社会をつくる。サルは厳密な階層社会をつくる。ゴリラは相手の目を見て意思疎通する。サルが相手の目を見るのは威嚇するとき。ゴリラは総じて温かくて感情豊かで繊細だ。さて、家族という集団をつくる人間。個食が社会問題として浮上した頃の文章だろうか。食事を家族で分け合うのではなく、買って一人で食べる時代になり、家族という仕組みの崩壊を予見して、山極さんは人間の未来を憂える。もっとゴリラ読みたい。ゴリラの歌聴きたい。 2019/06/21