内容説明
一九六七年ニューヨーク。文学を志す大学生は、禁断の愛と突然の暴力に翻弄され、思わぬ道のりを辿る。フランスへ、再びアメリカへ、そしてカリブ海の小島へ。章ごとに異なる声で語られる物語は、彼の人生の新たな側面を掘り起こしながら、見えざる部分の存在を読む者に突きつける。事実と記憶と物語をめぐる長篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
158
オースター作品で1番読みやすかった。謎めいていて、セクシュアリティまみれ。でも、その奥にあること....。あなたの前にある真実はどれなの? 誰の言葉を通した真実なの? どんなレンズを通して観ているの? 個人は、国家の前では太刀打ちできないの? そんなに無力なの? ある作家の人生を描いているようで、ここにあるのは、9.11の前までに、西側社会が、アメリカが、そこの国の人たちが、見ていたものの不確かさ。割れたレンズの破片の上を、あの日、裸足で歩き回った時に、ようやく見えかけてきたもの。2019/01/04
南雲吾朗
85
読了直後は茫然となり、どうレヴューを書けば伝わるか解らなかった。未だに、うまくまとめられない。兎に角深い読了感。最後の1ページの情景が読後数日たった今も頭の中から離れない、ハンマーの音まで聞こえてくる…。ムーン・パレスと同じ1967年を舞台にした小説。アダム・ウォーカーの死を目前にした最後の書簡。登場人物が複雑に絡み合い物語は進むが…。この本も、再読必須。読み重ねるごとに、もっと深いオースターの世界へ入って行けそうな気がする…。2019/01/17
seacalf
84
ポール・オースターは現実世界に潜んだ異次元にたやすく連れていってくれる。このぞくぞくする読書体験を約束してくれる稀有な作家のひとりだ。アダムとボルンの毒気に当たりすぎになるきらいがあるが、稀代のストーリーテラーでもあるので非常に取っつきやすく、もちろん抜群に面白い。小難しい解釈なんぞしなくても万人を惹き付ける魔力的な文章は健在。『ムーン・パレス』が引き合いに出されているが『鍵がかかった部屋』のファンショーにまつわる話を喚起させた。『4231』の翻訳も待ち遠しいが『ムーン・パレス』もまた再読したくなる。2018/11/18
どんぐり
82
ポール・オースターの邦訳最新作である。カバー写真はソール・ライター。ルドルフ・ボルンをめぐってアダム・ウォーカーが書いた「春」「夏」「秋」の三部からなる物語。物語内物語というには、外殻の部分はナレーションに近い。時代は1967年のニューヨークとパリ、そして時が過ぎた2007年。第1部の「春」は、作家志望の青年アダムがニューヨークでフランス人のボルンとマルゴの奇妙なカップルに出会い、文芸誌の発行と資金提供を受けるところからはじまる。その後の展開は、マルゴと関係をもったアダムが、ボルンの犯罪の告発に執念を燃や2018/10/26
キムチ
81
まさにInvisible!ここに極まれり。舞台は1960年代~激動の時間。コロンビア大でのボルンとウォーカーの出会い、黒人少年の撲殺から幕が開く。諸事がⅠ∼Ⅳで語られるものの、他書からの引用であったり、AがBの口を借りて言ったものだったり。。煎じ詰める程に読み手の脳内は霧の中。ボルンが怪物であり黒というのは分かる。が文学志望の美青年が米各地~仏~キリアと居所を転々と。近親相姦を初め複数の濃厚な性的体験を重ねていくことで見えてきたの?真相手記を出すに際し唯一の存命者セシールが語る手記が正鵠を射ている感が。2025/01/14