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内容説明
「新自由主義」という、摩訶不思議な怪物の正体とは?
――1匹の妖怪が世界を徘徊している、「新自由主義」という名の妖怪が
あるときはグローバル資本主義の先兵、またあるときは自由放任主義と格差拡大の犯人……だが、その実体は?
見るものによってその姿を変える「新自由主義」と呼ばれるイデオロギーの正体を、ケインズ経済学/新古典派経済学/マルクス主義経済学の歴史と、戦後日本の経済思想史を丁寧にひもときながら突き止める!
「私自身としては、「新自由主義(Neo Liberalism)」という言葉を使うことにためらいがありました。どういうことかというと、この言葉多分に実体がない――具体的にまとまったある理論とかイデオロギーとか、特定の政治的・道徳的立場を指す言葉というよりは、せいぜいある種の「気分」を指すもの、せいぜいのところ批判者が自分の気に入らないものにつける「レッテル」であって「ブロッケンのお化け」以上のものではないのではないか、という疑いがどうしても抜けなかったからです」(本書より)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Mealla0v0
7
本書は、新自由主義とは、それを批判するものが認識しているような体系だったイデオロギーではなく、冷戦以後にマルクス主義者たちが自らの延命のために生み出した「敵」の幻影にすぎないとする。実際それはそうだろう、雑多な実践の束でしかないのだから。個人的な関心は、産業社会論と村上泰亮の評価。日本特殊論を否定して、社会科学的な用語によって、日本の近代化を正当化する言説であったと指摘。開発主義は近代化を産業政策によって推進する限りで意味があるとした。最後のケインズとマネタリズムの関係も興味深いが、独特の文体が……2023/05/13
田中峰和
4
社会主義体制が次々崩壊した後、マルクス主義は現実味を失った。資本主義から社会主義への発展段階論が否定されれば、そのあとはどうなるのか。レーガンやサッチャーが推進した新自由主義が社会主義を葬ったような印象だが、新自由主義にはイデオロギーなど存在しない。実際、新自由主義の盟主とされるフリードマンやハイエクに主義とされるほどのまとまりはない。70年代、政府介入による不況対策を推進したケインズ経済学はインフレと財政赤字の副作用を生むと批判されたが、リーマンショックで新自由主義批判に転じ、ケインズは復活したようだ。2018/10/23
ゆえじん
3
新自由主義批判はかたちを変えた資本主義批判でしかない.というのがざっくりとしたまとめだろう.リベラルの批判する新自由主義なるものが、胡散臭いというか、経済学上にうまく位置付けられないというのは前から思っていたが、稲葉振一郎氏は、丁寧に分析・解体して適切な理解を促している.新自由主義は体系的なイデオロギーとはならず、表層的な政策のリストにしかならない.というのはフリードマンの『資本主義と自由』を読めばわかる.政府がやる必要のないことを取り出しては根拠づけを与えていくことが、新自由主義の仕事ということか.2019/01/30
A
2
新自由主義は、冷戦終了後の産業社会論没落によりマルクス主義者が作り出した新たな敵であり、体系的な思想ではない。それはいわば実態のない妖怪のような存在である。2020/08/20
chiro
2
経済学、政治学、社会学に通暁している著者が「新自由主義」とは一体何なのか?をマルクス主義からの歴史を通じて解明してみせている著作。資本主義と社会主義という対立が失われて以降資本主義に代わる理念として表された新自由主義であるが実体は希薄で突き詰めると様々な矛盾に突き当る。それを解きほぐしながら経済学という分野だけではこの動きを解明することは難しいとして政治学、社会学の見地から解きほぐしていく手法は実学としての耐性も備えておりわかりやすい内容であった。2018/09/06