内容説明
武田信玄は死に際し、自らの亡き殻とともに財宝を諏訪湖に沈めるよう命じた。その石棺の隠し場所を示す五巻の巻物をもって逃げる三人の落武者は、徳川方に討たれる。その巻物をめぐって武田の郷士・高市児次郎は、師僧・閑雪、猟師の子・伝太とともに三つ巴の争奪戦にまき込まれる―。人間の一生は修行だとする周五郎の信念に貫かれた伝奇時代長篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新田新一
40
武田家の秘宝をめぐる物語です。主人公の青年高市児次郎はストイックな青年で、秘宝の入手を目指す争いに巻き込まれながら、成長していきます。伝奇的な内容と青年の成長が縒り合された傑作。物語の中で徳川家康と真田昌幸が親しげに語り合うという伝奇小説ならではの場面に痺れました。伝奇小説の場合はプロットは面白くても、登場人物が操り人形のように感じることがあります。でも、この小説では人物描写に深みがあり、物語全体が地に足のついた内容になっています。作者の初期の作品であり、後年の名作の土台になった物語だと感じました。2025/07/29
びぃごろ
16
日中戦争時に書かれ「六年生」に連載していた作品。武田信玄の残した巻物を巡り少年と姫の争奪戦がテンポよく進む。結末も爽やか。 『知ることは容易く、実行することは困難。力ばかりに頼ると事を破る』2018/12/24
タツ フカガワ
9
武田信玄が隠したといわれる二千万両と家伝の宝物を巡って、甲斐の国の郷士の息子児次郎や真田昌幸らと、徳川家康と孫娘菊姫たちの争いを描く伝奇小説。1939年発表の少年少女向小説というが、これまで読み慣れた筋運びや語り口と趣が違うので、かえって興味深く読みました。ところで裏表紙のあらすじにある「亡き殻」は「亡骸」では? 昨日読んだ『間違えやすい日本語実例集』のおかげかしらん。2018/09/13
Kotaro Nagai
6
本日読了。本書は昭和14年~15年に「六年生」に連載された少年少女向けの作品。武田家の財宝をめぐる伝奇小説で若年向けに書かれているので、シンプルで読みやすい。戦後の深みにはとうてい及ばないが、といってそこは周五郎、随所に光るものもある。「六年生」に連載されたとはいえ、読者におもねる文体にはなっていないので、大人でも十分楽しめる。中高生の周五郎入門の書としていいかもしれない。2018/10/19
ブブジ
3
山本周五郎を読むのは何年ぶりでしょう。山本周五郎と言えば新潮文庫、一時期凝って全巻制覇しましたが、最近別の出版社から今までに新潮の文庫にならなかった作品が出てきました。また探し出して読みたいと思います。あとがきを読むと、「小学6年生」に連載したものとのこと、昔の小学生が読んでいたのかと思うと、今と比べてずいぶん読解力があったんだなぁと感じました。2018/11/10