内容説明
教育無償化、学力低下、待機児童など、近年の教育の論点は多岐にわたる。だが、公費で一部もしくは全体が運営される学校教育=公教育とはそもそも何のためにあるのか。実際に先進国の中で公教育費が少ない日本には、多くの課題が山積している。本書は、学校とそれを取り巻く環境を歴史的背景や統計などのエビデンスを通して、論じる。そこからは、公教育の経済的意義や社会的役割が見えてくるだろう。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
61
論点がたくさんあるが、私としては国立大学の法人化の受験生に対する影響、日本的な労働形態の非柔軟性、大学教育と労働市場の要求とのねじれというようなトピックに関心を持った。2018/04/10
きいち
34
教育の公的負担の大きさ、国際比較で現在の日本が非常に低い一方、50年代の日本は他国より突き抜けて教育投資をしていたグラフ(P.27)が衝撃的。他の先進国はその後の人的資本論の高まりで教育投資を増やしたという。◇教育の経済的意義をエビデンスベースで実証する議論を紹介(統計、なかなかついてけてないが)。正の外部性を持つ教育への投資、確かに少しずつ合意形成されてきた気がするな。経済性は多様な人びとの共通の土俵。◇労働生産性の低さは高い個人の能力を活かせていない経済界の問題、教育に責任転嫁するなとバッサリ。拍手。2018/05/27
おさむ
29
改憲の1項目として教育の無償化があがっています。全体像をつかみたいと思って新幹線で斜め読み。1950年代の日本の公教育の負担率の高さと、現在の低さの対照さを示すグラフが衝撃的。現在の低さの主因は就学前教育と高等教育の2分野にあるという。教育現場だけに責任を負わせるのは酷で、家庭や社会などの環境も子どもにとっては重要な要素という指摘はごもっとも。本著は幅広い論点を紹介してくれるのですが、社会調査や統計データの処理法などの言及がやや学術的過ぎます。もう少し一般向けに書けば、売れると思うけどなあ。2018/05/05
かごむし
28
教育というと情緒的に考えてしまうけど、本書の論点整理は明快だ。教育には正の外部性があるから税金を投入する意義がある、私的財と公共財の側面、格差と教育、労働市場の要求と教育の効率性を重視する改革のギャップ、など。そして、意思決定にはエビデンスが必要であることから、統計的な分析の方法や、見方について多くの紙幅を割いている。必ずしも見える数字だけがすべてではないことが理解できる。教育は日本の未来に関わる問題であり、特定世代だけの問題ではない。一つの問題をいろんな切り口でとらえる、本当の知性を感じる一冊であった。2020/05/13
Akihiro Nishio
23
最近は教育系の人と共同研究することも多くなったので、日本の教育について勉強した。教育に関する本はイデオロギー的なものが多い印象だが、本書は全く違う。多くのデータを引用しながら、なるべく中立な立場で語ろうとする。いや、それどことか、中盤など研究手法の解説に力が入りすぎてしまうほどである。しかし、その姿勢がいい。データを利用しても都合の良いところを抜き出しているだけかもしれないし、著者のようにデータに向き合っていることを示してくれると信用できる。うちの共同研究者も著者ほど冴えていれば良いのだが・・。2020/09/15