内容説明
他人への深入りを避けて日々を過ごしてきた宇田川に、後輩の女性蜂須賀や木工職人の鹿谷さんとの交流の先に訪れた、ある出来事…。土地が持つ優しさと厳しさに寄り添う傑作長篇。谷崎賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
411
高崎を中心とする群馬の、いたってリージョナルな小説である。ここに登場する地名は、さすがに高崎や前橋などはわかるが、山の名前以外は大半が初めて聞くもの。絲山秋子は現在は地元民だけあって道路状況も縦横無尽。生粋の群馬県人も顔負けの様子。さて、物語は2017年2月14日の記録的な豪雪に始まる。閉塞感の象徴のようにも見えるが、そうではないだろう。またタイトルの示す「薄情」は関係性の希薄さ、ややもすると無関心になりかねない危うさの中に生きる主人公の宇田川の心証を表象するものかと思う。2020/01/06
ベイマックス
95
谷崎潤一郎賞受賞作品。◎気になったこと、三人称が『かれ』だったり『宇田川』だったり、少し混乱。あと、句読点がないのが謎。◎群馬の細かい地名や道路名とか、そこまで固有名詞出さなくてもいいかな。◎ド田舎でもなく、地方都市の田舎の人間模様。色濃くなりがちな人情を、不器用に生きていく青年の話し。2021/05/28
chantal(シャンタール)
87
30代の宇多川は東京での仕事を辞め、高崎の実家に戻って来ている。群馬の各地の様子が事細かに語られるのだが、それは東京に行こうと思えばすぐに行ける地方都市、と言う距離感が必要だったのだろうか?東京から移り住んでいる木工作家のアトリエになんとなく集まる人々。その地元の人と東京から来た「他所者」との間の微妙な距離感を意味していたのか?薄情という言葉は負の意味が強いけど、誰にも深入りせず、薄情でいることが気楽であったりはするけれど。でも、自分が好きな人に距離を取られて、そう言う意味で薄情にされるのは寂しいよね。2021/04/11
Willie the Wildcat
69
時間軸で対比する自己。過去が過去のままか、未来となるか。これが不在と実在。表題は、自身の未来への心の在り方ではなかろうか。表層的な客観性と心底との乖離が表題。人との交錯が、自身と向き合う土壌。表層的には瑞穂/カズシとの出会いと別れであり、深層的には蜂須賀/鹿谷の”事件後”の動向。それぞれ前者が動的、後者が静的に心に染み込んでいく感。最後の件の”地方”。様々な暗喩が、頭に浮かぶ。静生が踏み出した一歩は、開かれた道への前向きさではあるが、同時に、現実の暗部を踏まえて生き抜く決意表でもある気がする。2018/10/17
アマニョッキ
66
絲山さんの描くダメ男がめっぽう好きなわたしでありますが(吉田修一のそれも好き)、今回の宇田川もとても良かった。一見無知で散漫そうな男が、実は密度のことを考えながら一服してるなんてもうどんだけセクシーなん。「多数決で負ける脳の野党」とか「自覚できないほど弱い毒」とかの絲山さん語録も良ければ、「北軽井沢といっても群馬県」だとか「長野原と長野県」だとかの考察もすごく面白い。禅問答のごとき宇田川の思考の海に、わたしも潜ったり沈んだりたまに顔出してみたり。とても不思議で心地よかった。そして群馬に行ってみたい。2019/01/07