内容説明
1858年6月、ボローニャのユダヤ人家庭から、教皇の指示により6歳の少年が連れ去られた。この事件は数奇な展開をたどり、国家統一運動が進む近代イタリアでヴァチカンの権威失墜を招いた。知られざる歴史上の事件を丹念な調査で描いた傑作歴史ノンフィクション。スピルバーグ監督映画化決定!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
36
"誘拐事件"という字面からは想像できないほど、各宗教や欧米諸国の政治的思惑が入り乱れた壮大な歴史ノンフィクション。カソリック権力の傲慢で非人道的所業の数々、イタリアにおけるユダヤ人迫害の長く惨い歴史には、200年近く前の話にも拘らず憤りを禁じえなかった。そして小さな事件ひとつが歴史を動かしたという点も非常に面白い。こういう視点でヨーロッパ史を学ぶならいくら長くても退屈しないと思う。ただフィクションとは違う現実的な結末にはため息ばかり……。綿々と続くユダヤ人迫害、その極点へと繋がる最後の一文はズシリと重い。2018/08/23
星落秋風五丈原
32
キリスト教徒にとって、原罪を許す行為である洗礼を受けずに、天国へ召されることは最大の不幸である。だからカソリックの女中は、今にも死にそうに見えたユダヤ人の男児に洗礼を施した。ただそれだけの事だと思っていた行為は、男児を両親から引き離し、教皇や諸国を巻き込んだ論争に発展する。突然息子を連れ去られた両親からすれば、誘拐という立派な犯罪行為である。しかし連れ去った側、命じた側からすれば「ユダヤ人家庭にキリスト教信者を置いておくのは好ましくない」という原則に基づいたまでだ。2018/12/24
サアベドラ
27
19世紀後半、リソルジメント進行中のボローニャで起きた教皇庁によるユダヤ人の子供連れ去り事件の顛末を扱った歴史ノンフィクション。著者はアメリカの歴史家・社会人類学者。「本人や家族の意志にかかわらず、キリスト教徒によって洗礼を受けたユダヤ人の子供は、両親から引き離されて教会によって育てられなければならない」。いくら教皇領での事件とはいえ、19世紀にもなってこんな人権を無視した時代錯誤も甚だしい理屈を押し通そうとしたカトリック教会には言葉も出ない。ちょっと長いが面白くて一気に読んでしまった。オススメです。2018/10/10
marumo
23
教皇の権力が衰え始めたイタリア。それでもまだユダヤ人はゲットーに押し込まれ、謝肉祭にはラビたちが屈辱的な姿を強要されていた時代。ある日突然、ユダヤ人・モモロの息子エドガルドが警察によって連れ去られる。モモロは生涯をかけて息子を取り戻そうと奔走するが二度と息子は帰らなかった… 恐ろしい悪夢だが、カトリックの女中がこっそり子どもに洗礼を授けたことで起こるこの種の事件は珍しいことではなかったらしい。事件は教皇とモモロが父権を主張し他国を巻き込んで教会と政治の問題に発展していく。→2018/12/17
jamko
17
中世の闇の色濃く残る19世紀のイタリア、教会の命令によりユダヤ人家族の6歳の息子エドガルド・モンターラが奪われた。理由はモンターラ家が雇っていた女中が両親に黙ってエドガルドに洗礼を施したからだという。そんなことある!?と思ったけどそんな例は当時たくさんあったらしい…。本作を読むとヨーロッパにおけるユダヤ人差別の歴史と根深さに驚く。ナチスが台頭する前にもそれに近いような差別が普通に行われていたのね。信教の自由についても深く考えさせられるノンフィクション。2018/11/25