内容説明
「咳をしてもひとり」「いれものがない 両手でうける」――自由律の作風で知られる漂泊の俳人・尾崎放哉は帝大を卒業し一流会社の要職にあったが、酒に溺れ職を辞し、美しい妻にも別れを告げ流浪の歳月を重ねた。最晩年、小豆島の土を踏んだ放哉が、ついに死を迎えるまでの激しく揺れる八ヵ月の日々を鮮烈に描く。(講談社文庫)
感想・レビュー
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mocha
103
自由律の俳人 尾崎放哉。帝大卒のエリートでありながら酒で身を持ち崩し、妻も職も失い死地を求めて小豆島へ渡った最晩年を描く。他人の温情にすがるしか生きる術を持たない放哉が、それでもプライドを捨てきれずに大言を吐く哀しさ。独りで野垂れ死にたいと言いながら毎日手紙を待つ孤独感。吉村昭氏自身の結核闘病体験から、その病の描写は鬼気迫るものがある。素晴らしい伝記文学だった。「障子開けておく 海も暮れきる」2017/01/13
レアル
89
読友さんお勧めの本。俳人の尾崎放哉が小豆島にやってきてから死ぬまでの晩年を描いた作品。酒癖が悪く、その後反省はするものの、その悪い癖は直らない。俗世間から離れて句作のみに生きたいはずなのに、欲がそうさせない。破滅の美学としての作品かと思えば、美学どころか、吉村氏の冷静かつ人物の洞察力の鋭さで放哉の「ダメっぷり」を淡々と描いている。しかしその「ダメっぷり」に不思議な魅力すら感じてしまう。でも実際、身内にこんな人がいたら大変そう。。良い作品だった。 2015/01/06
ともくん
81
人生の最晩年、肺を病み、小豆島に辿り着いた俳人・尾崎放哉。 五七五にとらわれず、自由な作風で知られた。 放哉の人生も作風と同じく自由であった。 むしろ自己中心的である。 俳人としては有能かもしれない。 しかし、人としては最低だ。 日に日に痩せ衰えてゆく放哉を冷徹に克明に描き切った大名作。2019/01/31
mondo
79
先日、吉村昭記念文学館で昭和60年にNHK松山放送局でドラマ化された「海も暮れ切る〜小豆島の放哉」を観る機会を得た。主演橋爪功以外は全て小豆島の島民で、放哉の最期の8ヶ月を描いた作品だった。それは、吉村昭の原作を忠実に描き切っていた。結核に冒され、壮絶な死に至るまでを描いた小説は、吉村昭の青年期と重ねたものだった。吉村昭は放哉が亡くなる40歳になるまでは、小説を書くことを控えていた。そして書き始めてからは、書き終えるまでは死にたくないと願って書いたという。放哉の俳句「咳をしてもひとり」が今も心に響く。2022/09/13
kei302
71
吉村先生は酒乱ではないけど、放哉と同じ病気、肺結核を若いころ患った経験から、孤独感や死の近さを感じる部分は著者と重ね合わせるような気分で読んだ。『入れものがない両手でうける』何も持たず。壮絶な生き様を見た。2020/11/01