内容説明
囚人たちの北海道開拓裏面史。明治十四年、赤い獄衣の男たちが石狩川上流へ押送された。無報酬の労働力を利用し北海道の原野を開墾するという国策に沿って、極寒の地で足袋も支給されず重労働を課せられる囚人たち。「苦役ニタヘズ斃死(へいし)」すれば国の支出が軽減されるという提言のもと、囚人と看守の敵意にみちた極限のドラマが展開する。(講談社文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おしゃべりメガネ
237
『羆嵐』の吉村先生がえがく、囚人による北海道開拓の裏歴史をえがいた大作です。会話はほとんどなく、ひたすら状況および情景描写がつづられていきますが、不思議とほとんどストレスなく、ひきこまれてハイペースで読了でした。40人の囚人による開拓の歴史が幕をあけ、過酷で地獄な労働環境のもと、開拓事業は進み、時を経て今の我々が住む「北海道」に至ります。ある意味、囚人による'労働'がなければ、北海道の姿はここにはなく、北海道民としてはぜひ機会をみつけて手にとっていただきたい素晴らしいドキュメントであり、ドラマがあります。2018/10/16
yoshida
163
北海道開拓の裏面史。明治14年、日本政府は凶悪犯や政治犯による北海道開拓を国策として開始。道路の敷設、農地の開墾、硫黄鉱山の増産、炭鉱での増産等、安価な労働力で北海道開拓を強力に推進する。牢獄には暖房はないため、厳寒の北海道で多くの囚人が凍傷や寒さで死亡する。看守も厳格に囚人を管理する。当時、北海道に送られた囚人は苦役の末の死が待っていた。唯一の希望は皇族の崩御による恩赦のみ。あまりに非人道的な事であるが、約100前の日本で行われていた事実である。衝撃的な内容。歴史の裏面史として記録される力作と言える。2016/10/03
kinkin
153
吉村昭といえば歴史文学として有名だがこの本も緻密な取材と文献で語られていた。北海道の開拓は本土からの移住者が全て行ってきたと思っていたが囚人を北海道の未開拓地、糠蚊や虻、うるしの木のある未開の大地に送り込み道路を作ったり囚人の集治監を作らせたということは知らなかった。またその背景には国の政治的な背景もあったということ。後に良質な石炭が見つかったことから炭鉱の労働者として使ったりもしたこと。北海道で粗末な赤い着衣と足袋も着けさずに厳しい労働を強いたことや囚人の逃走劇も描かれ読み応えのある本だった。オススメ2020/10/16
おしゃべりメガネ
109
河﨑さんの『愚か者の石』を読んでからの再読で、6年ぶりとなります。初めて手にしたきっかけはたまたま観に行った月形の樺戸資料館で本書を知りました。初めて読んだトキの衝撃は尋常ではなく、再読の今回もそのインパクトは衰えるコトはなかったです。河﨑さんの作品を読んだ直後というコトもあり、初めて読んだトキよりすんなりと読めた気がします。やはり本作を読むと、改めて北海道に住んでる身としては色々と深く考えさせられます。帯にあるとおり、まさしく'「脱獄」か「死」か'。北海道開拓史の裏歴史がここにしっかりと綴られています。2024/07/13
JKD
108
極寒の地で強行された囚人たちによる北海道開拓の黒歴史。劣悪な環境下での開墾作業、炭鉱ではカナリア以下の扱い、無惨な死を確実にする硫黄採掘など、明治から大正にかけてこのような施策が推し進められていたとは知りませんでした。そしてこの小説に書かれていることが全て実話であることも衝撃でした。国道12号線、いつか訪ねてみたいと思います。2023/06/04