内容説明
昭和初期の小倉。私鉄職員の“わたし”三輪は、陶器会社に勤める仲間、秋島、久間とともに詩を愛好していた。陶器会社の高級職員・深田の家に集まっては詩論を戦わせるが、3人とも都会的な雰囲気をまとう深田の妻・明子に憧れていた。だがある夏祭りの夜、明子は死体で発見される。事件は迷宮入りとなるが……(表題作)。山中で発見された白骨の謎を追う「山の骨」も併載。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モリータ
12
◆「山の骨」は『週刊朝日』連載「黒の図説」第11話、表題作「表象詩人」は同第12話に1972年に掲載、73年光文社カッパノベルス、78年文春文庫、2014年光文社文庫刊。◆表題作は小倉を舞台とし、清張自身の要素もある文学青年とその仲間の劇。大西巨人がアンケートで好きな作品として挙げていたので(『歴史の総合者として』356頁)。が、ストーリーテリングの面白さと問題解決のスッキリ感では「山の骨」が勝るように思う。2022/08/31
竹園和明
4
光文社文庫のプレミアム・シリーズ『松本清張』のラスト作。松本清張1970年代前半の頃の作品で、晩年ということもあり、全盛期の怒濤のようなうねりを持った筆力の作品と比べると小粒感は否めません。平坦な印象の推理小説。ただ、読者を飽きさせない展開はさすが。昭和初期の頃を舞台とした作品なだけに現代とは隔世の感はありますが、当時の日本が抱えていた濃密な生活感のようなものは随所に感じられます。松本清張の作品の価値は、まさにそこにあるものと思います。2015/03/12
とめきち
3
『山の骨』この作品の主役は、守山政治だな。作品のなかでは、政治が客観的に描かれるだけで、実際、政治が、「エリート一家のハジカレ者」としてどういう気持ちだったかは定かではない。想像するに、政治は、幼少期からかなり辛い立場に置かれていたのではないかと思う。何かとエリート一家のプレッシャーがあり、それが政治をグレさせ、このような事件を起こさせてしまったのではないか。政治の立場からみた形でこの作品を再構成して、映画化したら、『砂の器』のような心に訴える映画になるのではあるまいか。
ササヤン
3
表題作の感想。松本清張の若い頃を投影させたプロットがよかった。詩の芸術談義などは、似たような体験を清張がしたような気がする。東京の婦人への憧憬も。この小説は松本清張だけしか書けない作品だ2021/04/30
moleskine_note
1
清澄氏の若い頃の経験を投影した2つの作品が描かれている。工場と3人の詩を嗜む青年3人と人妻が織り成す物語。著者の作品の根幹をなす部分がありそうでなかなかに興味深かった。プレミアムミステリー第2部もこの1冊で終了。続きもあるのだろうか?TOTO→東洋陶業だという小ネタも巻末で描かれていた。2014/07/20