内容説明
「生意気言うな。貴様は誰のおかげで、社会に顔出しが出来たと思うか」(内田百間が記した弟子に激怒する漱石の言葉)。芥川龍之介・寺田寅彦・小宮豊隆・鈴木三重吉……熱心で純粋な若者たちを一途に愛した漱石と不肖の弟子24人。文壇史上稀にみる強い師弟愛。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
67
漱石の弟子にあたる人びとをまとめた本。鈴木三重吉や内田百閒など有名な人物から、今ではあまり知られなくなった人まで多数述べられている。思うのは漱石がいなかった、また彼の人望がなかったら今日の日本文学はだいぶ違っていたのではないかということである。それほど漱石は弟子に対して面倒見が良く、仕事の世話をしてやったりもしていた。私の中の家庭の中では横暴な漱石、というイメージが少し変わった。もっとも漱石の精神的な病からの暴力というものは記録されているとおりだったろうが……。2018/08/23
shinano
18
ぼくにとっては紹介されている人物たちについて真新しい内容ではなかったが、これらのひとたちから伺い知る「夏目漱石像」に偉人の姿を再認識する。漱石先生の人間味を知りたい『漱石』読者にはおすすめであろう。芥川の苦悩の一部に漱石先生の芥川への期待があったというのは理解できる。が、本書著者の強い「きっとそうであったはずだ」願望も少し見える気もしないではない。師と弟子との一対一での人間的繋がりは双方の慕うベクトルであることがわかる。2019/02/21
猫丸
16
弟子列伝。変わったところでは帝大の講義を筆録した金子健二、「無い手くらい出したまえ」と言われたという隻腕の魚住惇吉、蠟管蓄音器に漱石の肉声を録音した加計正文など。網羅的ではなく、興味深いエピソードを優先したようだ。より近い関係の東洋城や真鍋嘉一郎などはほとんど扱われない。森田や小宮くらい接近すると、漱石の磁場に取り込まれたあげく自身の個性伸長を害する可能性もある。芥川はそこに自覚的であったという。ただし図々しく借金した百閒や、最も私淑歴の長い寺田寅彦も良い仕事を残したのだから、あまり説得力はないな。2020/10/15
agtk
8
内田百間の著作を通してぐらいしか漱石山脈の面々については知らなかったが、この人も漱石のだったのかとびっくりする人も多くいた。読んでみて印象に残ったのは教育者としての顔。気難しい人、癇癪もちのイメージが強かったが、こんなに面倒見がよく、ある意味お人好しの面がある人とは思わなかった。その分、弟子たちは甘え過ぎの感はあるが。多くの才能を伸ばした漱石の功績はもっと世間に知られてもいい。そのための入門書として、読みやすさも含めて適している。また、第5章の二人の禅僧との交流が心に残った。2018/09/09
田中峰和
7
漱石邸の木曜会に集まった弟子と師匠の逸話集だが、作家として有名なのは内田百閒と芥川龍之介。凝りもせず生涯借金を繰り返した内田が陽なら、漱石もその才に敬服した芥川は陰の人。漱石に一切迷惑を掛けなかったのは芥川だが、大半の弟子たちは漱石への甘えからか迷惑ばかりかけている。松岡譲を木曜会に誘ったのは久米正雄だが、漱石の長女筆子の存在が二人を絶交に追い込んだ。筆子は久米のプロポーズを断って、松岡に告白し結婚。師匠の娘のスキャンダルとして小説を書く久米も見っともない。対抗心から鏡子夫人を悪妻にする小宮も最低の男だ。2018/11/01