内容説明
自然を「元来の姿」に戻そうとしてきた自然保護活動。
外来種を徹底的に駆除、手つかずの自然から人間を遠ざけ、人工物を撤去……。
しかし、それで本当に、地球の自然が守れるのか?
著者は「手つかずの自然こそ至高、自然を元の姿に戻すべき」というこの価値観が、じつはアメリカでつくり出された「カルト」であり、科学的にも、費用対効果からも、実現不可能な幻想であると、世界各地の実例から示していく。
自然を「かくあるべし」と限定してきた過去の自然保護のあり方を批判し、自然をもっと多面的なものととらえ直して、多様な現実的目標設定の下で自然を創り出す「多自然ガーデニング」を提案する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Koichiro Minematsu
55
「新しい」生態系は、とりわけ在来種の回復に役立つ有用性が証明されている。何をもって「自然」とするのか、外来種と在来種を区別する意味は何なのか、考えさせられる本でした。2021/02/12
アナクマ
35
自然状態の自然環境とは何か。そもそも私たちは、どういう状態の自然を望むのか。1章_もとの姿の、2章_手つかずの、3章_原始の、と、考え得る「自然な自然」をそれぞれに考証し、解体してゆく。それは幻であり、あるとしてもそれは定常状態/動的平衡状態のものであると。◉とんで10章の結論。「あらゆる状況に有効な唯一の最終目標は存在しない。人々が協力して…議論するしかない」つまり合理的な合意形成を。◉ところで著者は里山概念をご存知かどうか。自然征服文化に対置された原初志向と、里山文化とを念頭において残りを読みたい。2021/07/16
アナクマ
31
アメリカ由来の考察であることに注意。ヨーロッパの「人間による持続可能な利用および絶滅の回避」や「サトヤマ」とは始点が違う。◉終章_自然保護のためにどんな管理目標が妥当か、複数の案を検討する。例えば「カリスマ生物を守ろう」。密度が2倍になったゾウの保護区は灌木地のままで、アロエや多種多様な植物は育たなかった。他の種を随伴しないこともある、など。◉結論「残念ながら唯一の最終目標はない」様々なゴールのため、コストを無視せずはじめよう。「多自然ガーデニング」という翻訳は再考したい、まだしっくりこないのです。→2021/09/18
アナクマ
23
どんな自然環境が理想ですか? 1章_もとの姿の、2章_手つかずの、3章_原始の自然。4章_人為による野生の再現、5章_温暖化による移動、6章_外来種は悪か、7章_外来種による新しい生態系。それぞれに事例が並べられて「手つかずの自然にこそ価値ありとされた伝統的なヴィジョンは、幻想だ」と主張する。人類登場以来、隈無く改変されてきたこの星の、いつ・どの状態を理想とするかは、単純な問題ではない。◉ではどう考えるか。8章からは「生態系を設計する」「その必要があるのはどんなときか」「どこでも自然保護はできる」と続く。2025/08/17
meow3
15
感想が難しい。とりあえず自然保護において昔ながらの手付かずの自然を理想の形とするのは現実的ではないという意見だけは分かった。国によっては人がある特定の種だけを人為的に移動させる計画もあるようだが生態系の複雑さを考えるといいんだか悪いんだか。狭い庭やバルコニーの小さな自然も有意義である。庭や緑地を計画するに当たり、在来種を基本に非在来種を加えた植栽、園芸種に野生種を加える庭の植栽をするという意見は現実的で賛成できる。2021/06/02