内容説明
ゴシックミステリから奇譚まで極上の物語集。
元版は2002年刊の短篇集『約束よ』と2009年刊の中篇『抱擁』。二冊を合本、二部構成にして初の文庫化。第一部「抱擁」は、二・二六事件の翌年、昭和12年の東京駒場の前田侯爵邸を舞台に展開する。18歳の小間使い(わたし)の検事に向かっての供述で語られる物語。5歳の令嬢・緑子の不可思議な行動、ゴシック建築の洋館で起こる異様な事件、物語は謎をたたえて結末に向かって走り出す。ヘンリー・ジェイムズの傑作『ねじの回転』をパスティーシュした傑作である。
第二部は総タイトルを「この世でいちばん冴えたやりかた」と改め、七篇の名品が並ぶ。日本と中国を舞台にした奇譚の数々。一篇一篇がその文章力と物語の起伏で読む手が止まらない。特筆すべきは著者の代表作である盲目の落語家を主人公にした『遊動亭円木』(谷崎潤一郎賞)の外伝三篇が収録されていること。ファン感涙である。若き日に中国貿易に携わった著者でこそ書ける中国を舞台にした三篇もすごい。時代も唐から現代まで、そのストーリーテリングは凡百の作家の追随を許さない。タイトルに採った「この世でいちばん冴えたやりかた」は天安門事件を背景にした驚くべき現代の奇譚。単行本時の表題作だった「約束よ」には官能の匂いが立ちのぼる。
さらに、作品の中にさりげなく引用されるフロベールの『ボヴァリー夫人』とボルヘスの掌篇、豊潤な作品を詰め込んだ「世界文学」ともいうべき至福の物語集である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
91
辻原さんが文化功労章受章ということでよかったと思います。この本では抱擁が解説にもある通りに「ねじの回転」を感じさせるところがあり私の好みの作品でした。昭和の2.26事件の頃の話で前田侯爵邸での出来事ということで雰囲気も話に合うものでした。後半の短編集はどうも私の苦手な男女の関係みたいのが多く、ダメでした。辻原さんの作品は初期・中期のころの方が好みで、最近はご無沙汰していました。また「発熱」を再読しようかと思っています。2022/11/02
yukaring
59
昭和12年、東京・駒場の前田侯爵邸で起こる奇妙な出来事を18才の小間使いである「わたし」の目を通して描くゴシックミステリ。この物語はヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』のパスティーシュということで、子供を取り巻く不気味で儚い空気感は似ているが、こちらはリアルな時代背景を物語に折り込み『ねじの回転』とはまた違った独特なしっとりとした世界観を醸し出している。外国人家庭教師の言う「ポゼッション(キツネ憑き)」という表現にもゾッとさせられるが、最後のセリフの破壊力が凄く妖しい余韻を残すラストもとても印象的だった。2023/11/13
りつこ
40
「抱擁」は以前読んだことがあったのだが、再読してまた印象が変わったような。解説を読んでなるほど「ねじの回転」か!と。あれも読むたびに印象が変わる作品なのだよなぁ。どの作品も息苦しくなるような濃密な空気というか湿度があって、逃れられないような気持ちにさせられる。追いかけられる夢を見ていて「ああ、もうだめだ」と観念して力が抜けるような感じ。「この世でいちばん冴えたやりかた」は谷崎作品を思い出させる空気感。盲目の落語家や文盲の女、刺青師、邪悪な男。面白かった。2019/01/15
メタボン
27
☆☆☆☆☆ 洋館に小間使いとしてきたわたしと5歳の緑子との間に潜む影「抱擁」。快楽に誘う不思議な香りに魅かれる女のような名の夫と男のような名の妻「約束よ」。円木のスピンオフ作品「かみにさわった男」「窓ガラスの文字」「かな女への牡丹」(後半二つのヒロインである文盲のかなの人物造形が秀逸。「牡丹」は谷崎の刺青へのオマージュとも言える)。飛行機の車輪にぶら下がるというぶっ飛んだ設定の「青黄の飛翔」。百戯の一夜を境に貞淑な妻から淫乱奔放な女へと変わる「河間女」。現実と夢のあわいの表題作。作者の力量がただならない。2021/02/28
りんりん
7
読みにくいかと思うと,そうでもない。段々に読むスピードが上がり,独特の雰囲気にのまれていく。そんな感じの読書でした。2023/06/15
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