人工地獄

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人工地獄

  • ISBN:9784845915750

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内容説明

今日のアートにおいて「参加」、すなわち社会的関与を重視したプラクティスは、非常に重要な位置を占めている。日本国内でもすでに芸術祭やアートプロジェクトが百花繚乱の様相を呈しているが、国際的にも、社会的・政治的側面を重視したプロジェクト型アートの規模と影響力はもはや現代アートのメインストリームを占めているといってよいだろう。

一方で、倫理を逸脱した(とみなされる)アートは、ときに衝突と論争を巻き起こしている。こうした状況において議論される「アートの社会的関与はどの時点で達成といえるのか?」「アートにおける<参加>をいかに評価するか?」「芸術と倫理の衝突をいかに考えるか?」といった根源的な問いについて、いまだ確固たる答えは出ていない。

本書は、このようなアートと社会の関係性について考察を行なうものである。20世紀以降の芸術史から同時代のアートへと至る構成は緻密かつ類例のない大胆さをもつ。各章には著者クレア・ビショップが世界各国のプロジェクト型アートの実例に触れ、膨大な人物へのインタビューを行なってきた蓄積が存分に生かされており、彼女自身のアートに対する洞察の深化がうかがえる。

ビショップは「アートには社会から独立した役割がある」と確信するが、それはむろん「芸術が倫理を重んじなくともよい」という意味ではない。むしろ彼女は作者性と観客性、能動と受動、加害と被害、これらが本質として対立的にはとらえがたいものであることを強調し、複雑に転じていく位相をひもとくことで、より慎重かつ正確な理解を求めようとする。

「敵対」と「否定」に価値を見出しつつ、それらを多層的にとらえ直すビショップの鋭く豊かな思考は、「関係性の美学」以後のアートの構造を理解するうえで必ず踏まえるべきものといえるだろう。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。

しゅん

12
「参加型アート」としばし形容される、美術・演劇・教育・政治活動にまたがる実践。本書はその実践のモデルケースを地域・時代をまたいで多数紹介しながら、その実像を明らかにしようも腐心する。美術批評の訳書はぼくにとってて理解しにくくこの本も例外ではないのだが、一個一個の実例は面白く読めた。特に4章の60年代南米の演劇活動は全く知らなかった。8章の「パフォーマンスの外部委託」という話も興味深い。2018/08/16

takao

2
ふむ2023/07/07

yu-onore

2
論点および具体例が余りにも多岐に渡っているから一回ではとても全部把握できない……結論部はまとまりがよい。鑑賞者は時代ごとに能動性を増しはしたが、それは芸術家への従属の強化でもあると。参加型アートの意義は、人々を媒介に社会から距離を取りながらその矛盾を引き吊りだし、第三項を介して社会に接続されるような不安定性なのだと(安定した社会の反映や政治的手段とは違う)。 個別の事例だとボイス論(過剰に儀礼的な教育パフォーマンスによる教育の脱構築としての)とコミュニティアート論は興味深い。2021/01/26

doji

2
参加型、ソーシャリーエンゲージドなど、現代アートのひとつのかたちのありかたをめぐる大著。とにかく事例がおもしろく、すこしぎょっとするものもちらほら。新しい視座の礎になりそうなちからもあり、噛み砕くには一回では足りなそう。2017/06/22

sakanarui2

1
アーティストや観客のアクションやパフォーマンスから為る作品の変遷を、社会的・政治的背景から読み解く。自分自身知識不足でちゃんと理解できたとは言い難いが、がひとつひとつの事例は興味深く、それらを単体の作品ではなく美術史、政治史から俯瞰した視点を持てたのは大きい。2022/03/23

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