内容説明
あの日なら、僕はすべてを捨ててしまうことができた。仕事も家庭も金も、何もかもをあっさりと捨ててしまえた。――ジャズを流す上品なバーを経営し、妻と二人の娘に囲まれ幸せな生活を送っていた僕の前に、十二歳の頃ひそやかに心を通い合わせた同級生の女性が現れた。会うごとに僕は、謎めいた彼女に強く惹かれていって――。日常に潜む不安と欠落、喪失そして再生を描く、心震える長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
637
物語の終盤は、胸の中に空洞ができたかのような喪失感にとらわれる。幾分かは通俗的な感が否めなくもないが、読後の切なさは村上春樹の作品の中でも1番かと思う。12歳の時に、ただ1度互いに手を取り合った原体験が、この小説を最後まで規定し、支配しているのだろう。たったそれだけのことなのだが、それはまさしく至高の体験だったことは、とてもよくわかる。37歳の現在も「僕」は彼女を「島本さん」と呼んでいることも、それを証左しているだろう。そして、切なく孤独なのは、「僕」だけではなく、島本さんも有紀子もイズミもなのだ。 2012/08/08
ehirano1
420
この独特の世界観がたまりません。登場人物も必要最小限で、メタにこだわっているように感じます。ミステリーやサスペンス(島本さんが何処へ行ったのか等))を本書に求めると全く面白くないか、モヤモヤだけが残るというある意味読者を選ぶ本ではありますが、メタに着目するとこれほど面白い本はなかなかないのではないかと思います。2020/10/18
zero1
336
男は誰にでも、忘れられない女性はいる。主人公ハジメにとって島本さんがその人。心は乾いたまま。しかし彼には妻と娘たちがいた・・・どこか「1Q84」に通じる展開。物事に中間はなく、すべてを受け入れるか知らないままにするか。イズミや10万円など謎が多く残るが「海辺のカフカ」と同じくそのまま。この作品は、2000年にドイツの「文学カルテット」で論争を巻き起こした。私も最初に読んだ際は批判的だった。しかし何度か再読し「こんなのもあり」と思えるようになった。時間を置いて再読しないとこの作品は理解しにくいのかも。2018/11/09
ミカママ
320
何度目かの再読。胸が締め付けられて、涙をこらえるのが大変な作品でした。これって春樹さまの自伝的要素もかなり入っているのでは?「島本さん」は、彼にとって理想の女性の原点なんでしょうね。あぁぁ、この世の中に、ただ一対の男と女だけが存在して、お互いのことだけを見ていることができればどんなにいいか。2016/05/26
HIRO1970
306
⭐️⭐️⭐️この作品かなり好きですね。短めの長編です。全てリアルな話として書かれているのですが、パラレル的に過去の意識が顔を出して来て、主人公のリアルの世界に入り込んで来ます。これは原罪的な罪の意識の現れなのか、それとも地位と成功を手にした後の単なる有閑階級の戯言なのか、マンネリ化した日常の隙に誰にでも起こり得る過去の亡霊のような物なのかも知れません。現実認識が女性より甘い男性諸氏には耳が痛い話であるはずですが、奥さんの対応がチョットぬる過ぎるような感じがしてフィクションのお話だなあと最後は思えました。2014/06/01
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