内容説明
太平洋戦争時、日本領土内で起こった劇的な出来事を発掘!
当事者に綿密な取材を行って書き上げられた衝撃の戦史小説
北海道の海辺の寒村に次々と流れ着く死体の群れ。沖合で潜水艦に撃沈された輸送船では、上陸用舟艇に載れたのは将校ばかりだった(「海の棺」)
ソ連軍の侵攻にさらされた樺太の炭鉱町で、看護婦たちが集団自決を図った。記者の取材に生き残った元看護婦たちは固く口を閉ざすが……(「手首の記憶」)。
昭和20年8月22日。戦争は終わったはずの北の海で、ソ連籍と思しき潜水艦の攻撃で沈没した「小笠原丸」の悲劇(「烏の浜」)。
沖縄戦で軍司令部の散発要員として軍に帯同した理髪師が見た、軍司令官自決の真実(「剃刀」)。
訓練中に不幸な事故で沈没した潜水艦・伊三十三。9年の歳月を経て引き上げられた艦内の一室からは、生けるが如き13名の遺体が発見された(「総員起シ」)。
全5篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ケンイチミズバ
119
ソビエトの上陸後、生きて辱めをうけまいと劇薬と睡眠薬を飲み手首を切る看護婦たちがあまりに気の毒でならない。生存者の証言を残し伝えるべく取材協力を得ようと苦心した記者は結局自分の記事がもとで開かれることになった慰霊祭に参加しない。気持ちが抑えきれないからとの人間らしさと辛い記憶を蘇らせたことへの罪悪感が感じられる。代理出席した後輩記者は涙目で帰社し原稿を書き自身はいつものようにその原稿に朱を入れる。記者の矜持というか、最後は淡々と仕事をこなす結びの余韻がとてもよかった。手首の記憶というタイトルもとても深い。2020/12/02
サンダーバード@怪しいグルメ探検隊・隊鳥
100
大戦中の日本国内で起こったことを題材にした短編集。世に知られない悲劇がたくさんあるのだが、これもほんの一例であろう。潜航訓練中の事故で沈没し、そのまま鉄の棺となった表題作の「総員起シ」。敵潜水艦に撃沈された輸送船の遭難を描く「海の柩」。沈没した遭難者の救助よりも情報秘匿を優先する軍。そして乗り込んでいた将官がとった人間として許されな卑劣な行為。沖縄戦の従軍看護婦の集団自決を描いた「手首の記憶」。どれも当事者にとっては語り継ぐ事さえつらい出来事。だけど、私たちはその記憶を後世に伝えなければならない。★★★★2016/08/02
kinupon
91
どの話も戦争の悲惨さが込められています。市井の人から兵士まで、死と隣り合わせの極限の状態で、人は何もできないのでしょうか。2016/03/23
タツ フカガワ
87
太平洋戦争の終戦前後を背景にした5話の短編集。訓練中に伊予沖に沈んだ潜水艦。9年後、海底から引き揚げられた艦内の一室で発見された乗組員は「総員起シ」の号令でいまにも動きだしそうな遺体だった。艦内では何が起きていたのかという表題作や、北海道の小さな漁村の浜に次々と打ち上げられる手首を切り落とされた水死体。その真相に胸が塞がる「海の柩」など、戦争の現実に打ちのめされた1冊でした。2022/07/13
at-sushi@進め進め魂ごと
83
冷徹な吉村節が冴え渡る、戦争が生んだ知られざる悲劇を描く短編集。 救命艇にすがる兵達の手を斬り生き延び、復讐を恐れ救助を遅延させた将校達や、終戦後に引き揚げ船を撃沈し、浮遊する生存者に機銃掃射を加えるという鬼畜の所業が、何の罪にも問われていないのが腹立たしい。 集団自決から蘇生し、罪悪感を抱きながら戦後を生きた看護師達も悲痛。 表題作で、沈没後空気が残った船室で死を迎えた潜水艦員達の極限状況は、想像するだけで発狂しそう。死んでも乗りたくない乗り物No1や。 文庫本とは思えないほど読後の腕に重さが残った。2020/11/27
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