内容説明
インド洋を横切り、アフリカ大陸を回りこんで大西洋を北上する3万キロの隠密行!
第二次大戦中、五回に渡って行われた遣独潜水艦作戦の全貌を描いた著者最後の戦史小説
太平洋戦争勃発後、連合国側に陸路・海路を封鎖され、日本と同盟国ドイツとの連絡は途絶した。この苦境を打破するため、海軍は潜水艦を単独でドイツに派遣する“遣独潜水艦作戦”を敢行した。
マラッカ海峡を抜けてインド洋を横断し、アフリカ大陸を南下、喜望峰を回りドイツ占領下フランスの大西洋岸の港まで、はるか3万キロを連合国側の厳重な対潜哨戒網をかいくぐって往復するという、過酷極まりない作戦。
伊30、伊8、伊34、伊29、伊52。五次に渡る作戦の中で、無事に日本に帰還したのは第二次の伊8一隻に過ぎなかった。
「文藝春秋」連載中から大きな反響を呼び文藝春秋読者賞を受賞。そして本作が著者最後の戦史小説となった。
解説・半藤一利
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
176
大東亜戦争にて同盟国である日本とドイツは軍事技術の交換や、相互の連携の為に連絡をとることを切望した。しかし、そこには約三万キロという途方もない物理的距離があった。連絡に空路を選ぶとソ連参戦を危惧した日本は、潜水艦によりドイツに向かう。喜望峰の難所を超え、戦局の悪化による連合国の攻撃を掻い潜る超人的な行動である。多大な犠牲の中、チャンドラ・ボースをドイツから日本へ迎えインド独立運動のきっかけをつくる。また、レーダー、ジェット技術を持ち帰る。しかし、成果に対するあまりの犠牲の多さに、戦争の虚しさを思い知る。2018/02/18
ehirano1
121
第二次大戦中に日本の潜水艦がインド洋~喜望峰~大西洋経路でドイツ(正確にはナチ占領下のフランス)まで航行(潜航)していたという“実話”に只々驚愕しました。そして何よりこの潜水艦達が戦時の軍の縁の下の力持ちだったことを初めて知りました。もっとハラハラするのかなと思って読み始めましたが、淡々とした記載が只管続く本書は潜水艦に関わった英霊、技術者、遺家族へのレクイエムなんだと感じました。2017/02/13
サンダーバード@永遠の若者協会・怪鳥
91
第二次大戦関連の本は意識して読むようにしているのだが、己の勉強不足を痛感するとともに新たに学ぶことが多い。この本もそんな一冊。大戦後期、制空権を失った日独間でこのようなルートで連絡を図っていたことを初めて知った。独のレーダー、日本の酸素魚雷など両国が互いに技術導入を行っていたのだ。それだけでなく、インド独立指導者の一人であるチャンドラ・ボース氏の日本への亡命に潜水艦が利用されていたとは!中韓から見れば侵略者であった当時の日本も、英国から独立を目指すインドにとって反英の同志であったことは興味深い。★★★★2015/05/02
バイクやろうpart2
88
吉村昭さん作品11作目です。教科書でしか目に触れなかった『日独伊三国同盟』、これ程までに密接な交流があったとは⁉︎ あまりに無知でした。そして過酷な戦況の中で、国同士を繋ぐ唯一の乗り物が潜水艦だったとは⁉︎ あらためて当時のドイツの技術が優れていたかを知る機会になったと同時に、今、私たちが存在するのも、英霊の皆さまの勇気と尊い命の上に成り立っているように感じました。重い一冊です。2018/12/05
at-sushi@進め進め魂ごと
82
戦局を打開する情報や技術を受け取るため、唯一の輸送手段である潜水艦で、哨戒機や機雷ひしめく大西洋の彼方の同盟国・ドイツを目指す。殆ど宇宙戦艦ヤマトの世界である。例え軍事目的であるにせよ、無線封止し、垢まみれになりながら万里の波濤を越え、華々しい戦果とも無縁のまま墓標も無い海に眠る男たちに哀悼の意を禁じ得ない。早口の鹿児島弁を暗号代わりに使ったくだりには笑ったが、それが一人の日系アメリカ人に悲劇をもたらす。戦史に埋もれた事績を丹念な取材により掘り起こした著者の労力には頭が下がる。 2021/01/26