内容説明
刻々と変貎する《東京》を舞台にした戯曲「エピタフ東京」を書きあぐねている“筆者K”は、吸血鬼だと名乗る吉屋と出会う。彼は「東京の秘密を探るためのポイントは、死者です」と囁きかけるのだが……。スピンオフ小説「悪い春」を特別収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
165
東京を舞台にした戯曲を書いている主人公(まあ恩田さんのことでしょう…)が、その舞台となる東京の街をさまざまな角度から切り取って、東京という街の実像に迫っていく過程を書き記したこの作品。東京のあんなこと、こんなことと、そのとても興味深い内容に、少し物知りになったような読後が待つこの作品。そんな中に『筆者はここ数年、資料として大量のピアノ曲を聴いているのだが…』という一文に「蜜蜂と遠雷」が出来上がる前夜のトキメキを感じさせてくれたこの作品。とらえどころのないその全容に逆に恩田さんらしさを強く感じた作品でした。2021/12/21
佐島楓
80
不思議な作品である。東京が無数の死者たちの上に成っているという前提で進められる、エッセイとフィクション、戯曲までもが混然となった小説。東京の特異性は、ほかの都市や東日本大震災を契機に思い起こされる土地からも示され、日本の特異性へと広がっていく。最後の二、三章の連なりは、突飛なようでいてこの着地点を狙っていたのか、と納得。悪夢は、現在進行形でつづくのだ。2018/04/25
R
54
現代を舞台にしたSF小説でした。吸血鬼だと名乗る男、実際にそうであろうと思わされつつ、そのことの不思議ではなく、彼の語る不死性から生きる意味や、生きたあかし、歴史の連なりなんかに思考がとんでいくという物語。とりたてて、何か事件がという話でもなく、人生の意味みたいな、深淵だけども、意味がない思考とも呼べるそれをつなげていくのを楽しめる。何がととらえにくい物語だけど、不思議と読めて、読んだと感触を覚えた読書でした。2018/10/06
里愛乍
45
リアル東京を背景に、でもやっぱりフィクションで、それでもあるある風景が描かれた日常で、ならエッセイ風小説かと思いきや間に挟まれた戯曲や視点の違う物語…ここに挙げられている映画やドラマ、小説はほとんどが自分の好きなものだったり興味をそそるようなものばかりで嬉しかったり、一方では吉本新喜劇の面白さがわからないとは、と嘆いてみたり。作品自体が面白い構成で、軽く短編を読むノリで進めつつも全体の深さを楽しめるような奥行きを感じました。2018/04/24
piro
36
戯曲「エピタフ東京」を創作しながら、東京のエピタフ(墓碑銘)を探すストーリーは、「筆者」によるエッセイの様であり、様々なピースを集めた連作短編の様でもある。各章は難解では無いけれど、繋がりが掴みきれずどこへ向かうのかがわからない。でも街中を彷徨い歩いている様で、どことなく楽しさもある。何とも不思議な作品でした。「エピタフ東京」は完成した様ですが、断片しか垣間見ることはできない。そんな所も恩田さんらしく(笑)、スッキリさせてくれない展開。最後の『悪い春』は嫌な気分にさせられますが、全体としては嫌いじゃ無い。2025/03/06