内容説明
幕末の石見銀山。間歩(まぶ)と呼ばれる鉱山の坑道で生まれたお登枝は、美貌を見込まれ女郎屋に引き取られた。初めて客を取る前の晩、想いを寄せる銀掘の伊夫を訪ねるが、別の男に襲われる。とっさに男を殺め、窮地を救ってくれた伊夫と身体を重ねたお登枝。罪と秘密をともに抱えた二人の行く末は――。変わりゆく世を背景に、宿命を背負った男女の灼けつくような恋を官能的に描き切った力作時代長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
308
【遊廓部課題】ひさびさにため息の出るような「遊廓本」を読んだ。生涯ただひとりの男を愛した遊女・登枝。「男とは抱くものだ、抱かれるものではなく」。想い人からの文「達者に候 御身は達者か また文をする むかへにいく」には思わず涙腺も緩んだ。会うことさえままならない、結ばれないからこその愛の美学がここにある。2018/05/09
じいじ
115
面白い。一途に唯一人の男・伊夫を愛し続ける遊女お登枝の生涯を綴った物語。舞台の石見銀山を流れる空気は重く昏い。そんな中で若い二人の恋はメラメラと激しく燃え上がります。「男とは、抱かれるのではなく、この生身で抱くものだ」と情念を燃やすお登枝に、女の真の強さを感じます。初めて客を迎えることが決まったお登枝が、愛する男のもとへ走るシーンがクライマックスだ。「伊夫に抱かれたい。この手で抱きたい」と操を捧げるくだり。初々しく官能的で、筆者の筆の冴えが光ります。2018/02/05
はるき
34
何があっても生きぬく。腹をくくった女の力強さの前では、どんな男も平伏すしかありません。 力強さが心地よい。2017/12/29
moonlight
29
石見銀山を擁する町、大森が舞台。過酷な銀堀の労働が町を支える。幼い頃に出会った銀堀の男、伊夫を一途に愛する遊女、登枝。外に出ることさえままならないのに、いざという時には闇を抜け山を駆け泥まみれになっても愛する男を抱きに行く。登枝の想いが強過ぎて伊夫が呑み込まれてしまったかのよう。なんとも凄みのある情念がこもった物語を堪能。2020/12/25
みっちゃんondrums
21
児童文学作家だったあさのあつこ、遅ればせながら大人の小説初読み。序章の自分語りで、主人公・登枝は江戸時代末期に生まれ、齢70を超えたと言う。遊女だった十代の頃の激しい恋と秘密を抱えて生きてきた。美しく儚げに見えて、なんとしたたかだったことよ、登枝さん。自由にならぬ恋こそ燃え上がり、忘れられないものになる。男の伊夫のほうが一途だったように思う、切なかった。「間歩(まぶ)」の音に、遊女の情夫を示す「間夫」を思わせられるよね。しかし、さ、美しいからって14歳の女に入れあげる男たちって、ああやだやだ。2021/10/11