内容説明
昭和19年、風土記の執筆を依頼された太宰は三週間にわたって津軽半島を一周した。自己を見つめ、宿命の生地への思いを素直に綴り上げた紀行文であり、著者最高傑作とも言われる感動の一冊。
※本書は、角川文庫旧版(一九九せ年六月二十五日改版初版)を底本とし、筑摩書房『太宰治全集』(一九九せ)ほかを参照して、一部原文表記に改めました。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
69
再読。初めてこの本を読んだのは東北旅行、津軽を旅している途中であった。その時は弘前城と金木の斜陽館を訪ねただけであったが、本書を読んでいるとその時に仰ぎ見た岩木山や立ち並ぶ林檎の木をありありと思い出す事が出来る。内容は太宰治の故郷津軽半島を一周した記録であるが、故郷に対する感情、愛憎や悲喜こもごもが文中から漂ってくる気がする。とはいえ友達との交流はひたすら楽しそうで、太宰の鬱々とした印象が一変しそうな感じさえする。そしてラストの再開。読んでいると、あの津軽の地をもう一度訪れたい衝動にしばしば襲われるなあ。2020/03/04
rico
67
ああ、いいなあ。すーっと浸み込んでいくような感じ。太宰読んでこんな気持ちになったのは初めて。津軽の風景と歴史、懐かしい人たちとの交流。手描きの地図を見返しながらその旅程を追う。酔っぱらって調子に乗って顰蹙を買う友への太宰の眼差しは優しいし、タケを初め迎えてくれる人たちは皆暖かい。ユーモラスなやりとりに何度も吹き出してしまった。気にかけてくれる人がこんなにいて、そこに素直に身も心をゆだねている太宰は少年のよう。ほどなく心中で命を断ってしまうなんて想像もできない。彼の孤独はそれほど深いのか、単なる気まぐれか。2019/05/23
Nao Funasoko
43
『走れメロス』は中学生の頃に読んだ記憶がある。確か愛人!?と入水自殺した。太宰について持っている知識はそのぐらいだ。さて、その太宰だが、このルーツをたどる紀行文を本当に自分の気持ちに正直に書いているのだとしたら、彼は小心者でイジイジした性格でファッションセンスは皆無で酒飲みでオタクな男だけれどもなんとなく優しいところもある人物だったんだなとちょっと興味沸いてきた。青森の三内丸山遺跡にはいつか行ってみたいと思っているのだが、その折には太宰の足跡を追ってみるのも一興かもしれないな。 2019/02/20
あきぽん
41
カドフェス2018より。夏の文庫本フェアは古典を読む絶好のチャンスなので、まずは没後70年の太宰の未読本をセレクト。本書は昭和19年、30代の太宰が故郷の津軽を旅した時の紀行文。太宰といえば世間一般にはドラッグとセックスに溺れた暗い人、のイメージがあるけれど、ちゃんと向き合って読んでみると「優しく爽やか」な人柄が浮かび上がってくる。太宰が、男にも女にもモテモテだったのが腑に落ちる。私も、実際に太宰に会ったら惚れたかも?2018/07/08
里愛乍
40
太宰の人となりが覗えるような紀行文。彼の小説に出て来る人物はどうにもめんどくさい系の人物が多いのであるが、彼自身はこうしてみると非常に素直で子供で茶目っ気のあるように思われる。終盤のたけに逢いに行くというくだりはなんだか微笑ましくて可愛くて、なんだかちょっと切なくなったりして、また少し太宰が好きになった。10代のころ、反抗期のように彼の小説が苦手だった自分が時を経て、また読んで感情の違いに気付く。本の中身は変わっていない。明らかに私が変わったのだ。これを成長というのかな、などと実感してみる。2018/10/12