内容説明
伝説の作家がアメリカ人を偽装して執筆して戦後間もないフランスで大ベストセラーとなったハードボイルド小説にして代表作。人種差別への怒りにかりたてられる青年の明日なき暴走をクールに描く暗黒小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かみぶくろ
96
出版国フランスで発禁処分になったという本作だが、発禁処分は社会の急所を突いていることもあり、ある意味ブランドにもなりうる。黒人差別を痛烈に批判する趣旨の内容だが、批判というより憤怒といった方が正確な、理不尽への筆者の強い怒りが冴え渡る。白人への復讐者である主人公の暴力に正当性は一切ないが、黒人差別の暴力も同様に正当性は一切なく、むしろより醜悪である。終章の乾ききった結末は、筆者のアイロニーが存分に効いていて、痺れる。2018/11/21
蘭奢待
62
アメリカの作家だと思い込んで読み進めていたが、ボリス・ヴィアンの作品だと読み終わって気がついた。リーは黒人と白人の両親の間で、見た目は白人として生まれたが、血はれっきとした黒人。人種差別を憎しみ、人種差別者に殺された弟の恨みを晴らそうとする。ビートニクのようなノリながらも、重厚なテーマ。2020/08/01
えりか
57
アメリカにおける黒人文学の著者といえば、私の中ではトニ・モリスンなのだが、本書はフランス人のヴィアンが米国人になりすまして書かれたものである。差別主義に対する彼の憤怒が込められた作品だ。※肺に睡蓮の花は咲かない。黒人のリーは弟の復讐をするため、白人の美しい姉妹に近づく。スピード感と狂気にグイグイと引っ張られる。さっきまで仲良くしていたのに、黒人と判明した瞬間にガラリと態度を変えてしまえるところが恐ろしい。ラスト2行に差別主義の愚かさ、醜さ、壮絶さ、虚しさ、報われなさが詰まっているように思う。唖然とする。2018/05/12
mii22.
56
タイトル通り攻撃的でハードボイルドなノワール小説で、幻想的で悲痛な恋愛小説『日々の泡』を読んだ時とは違った衝撃をまたもやくらった。訳者のあとがきを読んで大戦直後からのヴィアンの生き方を知ると、白い肌を持つ黒人青年の人種差別に対する復讐という設定や、日々の泡では職を転々としながら愛のために破滅の道を歩んでいく主人公の青年が描かれているのが、すとんと腑に落ちた。これは生き急いだヴィアンの魂の叫びの作品だと感じた。2018/05/21
かめりあうさぎ
41
初読み作家さん。この本自体が裁判にかけられ発禁となったという経緯も含めて作品の過激さが際立っていた。しかしここまでの憎悪が人間の本来の姿ではないと言い切ることはさすがにこの歳になると出来ない。これよりひどいことが平気で起きるのが人種や宗教の争いであり、それはイコール人類の歴史だから。汚いものに触れたくない人は読んじゃダメですね。2018/10/25