内容説明
安永四年、京都。当代一の絵師を目指す豊蔵と彦太郎は、ひょんなことで奇跡の出会いを果たす。喧嘩しながら才能を認め合い、切磋琢磨し腕を磨く若きふたり。鼻つまみ者の「ごんたくれ」と呼ばれた彼らは、求めた道の先に何を見たか? 京画壇の華やかなりし時代、実在した二人の奇想の絵師をモデルに、芸術を探求する人間の性と運命を描き出した、傑作時代長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
rico
97
「ごんたくれ」は、やんちゃ、かわりもの、というようなニュアンスだろうか。二人の主人公のモデルは18世紀後半の京都画壇の異端児、芦雪と蕭白。物語に出てくる彼らの作品は実在のもの。なぜわざわ架空の人物に?と思ったが、史実に縛られず、ごんたくれ絵師たちの人生を自由に描きたかったのだろう。同時代の大家、応挙や蕪村などの人となりや、歴史的事件を織り交ぜ、絵師たちの世界が生き生きと甦る。とはいえ、以前見た芦雪や蕭白の作品の放つ圧倒的な力の前では、どんな物語も霞んでしまいそう。芸術家を物語にするのは本当に難しい。2021/05/04
ふじさん
95
二人のごんたくれ、強情、偏屈、へそまがり、引くことを知らず、会えばかりを繰り返す二人の絵師、深山筝白と吉村胡雪。吉村胡雪は、当代一の誉れ高い円山応挙の弟子、深山筝白は我こそは京随一の絵師と豪語する変わり者。二人は、反目しながらも絵師としては互いを認め合い、それぞれが名声を高め、数奇な人生を歩む。絵師として歩む二人の矜持や苦悩、孤独が後半になると色濃く出てきて、辛さも感じるし、二人の葛藤が手に取るように分かり、心に染み入った。京都画壇を舞台に、池大雅、円山応挙、伊藤若冲等も登場し、読み応え十分の作品。2024/04/22
のぶ
90
最近、マイブームの西條奈加さんだが、この本も良かった。江戸時代後期の京を舞台にした絵師の物語。円山応挙の弟子、吉村胡雪こと彦太郎と、深山筝白こと豊蔵が出会いでいきなり喧嘩をする。以後二人はライバルとなるが、絵師としては互いに認め合い、それぞれ名声を高めながら数奇な人生を歩んでいく。本作にはモデルがいて長沢芦雪と曾我蕭白らしい。この人物の予備知識はなかった。人間ドラマとして面白いし、円山応挙以外にも、与謝蕪村、伊藤若冲ら当時の花形絵師が登場し、日本画に興味のある人にも楽しめる話となっていた。2021/05/28
papako
78
NHKの若冲のCMを見てこの時代の画家さんが気になって。すごく面白かった!円山応挙全盛の時代、ごんたくれ異端児二人の人生。応挙に師事しながらも、自分の絵を追い続ける彦太郎と、どこまでも自分の道を行きながら、人のことも気になってしまう豊蔵。たまに交差する二人がお互いに影響しあい、高めあう。友情とは違うライバル同士の関係が心地よかった。応挙の職人という考え方もありですよね。モデルとされた画家の作品を検索しながら読みました。もっとこういう絵に触れておけばよかったと後悔しました。うん、いいな、ごんたくれ。2021/04/24
エドワード
52
若い頃は、桃山時代の絢爛たる障壁画の解り易さに比べ、浮世絵以前の江戸時代の日本画の良さが解らなかった。池大雅や円山応挙の穏やかさ、伊藤若冲の奇想が今はよく解る。自然、歴史、人生。彼らの画は奥が深い。若いヤツには解らんさ。そんな実在の画家たちの間に挿入される、架空のごんたくれ絵師。円山応挙門下の吉村胡雪と、一匹狼の深山筝白。筝白の口の悪さが心地良い。会えばいがみあうが、相通じるもののある二人の波瀾万丈の日々、今も変わらぬ、狭い画壇の裏表が興味深い。小説である故、二人の絵にはついぞお目にかかれぬこそ残念なれ。2018/08/27