内容説明
近所に憧れの老作家・坂下宙(ちゅ)ぅ吉(きち)が引っ越してきた。私は宙ぅ吉のデビュー作「三つ編み腋毛(わきげ)」を再読する。そして少しでも彼に近付きたいという思いを強くして──「イナセ一戸建」を含む六篇のほか、文庫版特別書下しとして、作中登場する坂下宙ぅ吉のデビュー作「三つ編み腋毛(抄)」を収録した全七篇。淫靡な芳香を放つ狂気を描く、幻の短篇集が待望の文庫化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ろくせい@やまもとかねよし
108
本書を読了後、タイトルが「灸据えっど」であることを知ったことが個人的最もな発見。それまで気づかなかった関西出身である自身を恥じた。人間は生物であるが故、利己的でしかないことを、性や排泄など人間的タブーを用い表現していると感じた。また、人間に利他性など存在しないことを、同じ場面に遭遇しながら全く異なる人々の意識から明らかとする。登場するエキセントリックな人物には、小説内の非日常的な虚構だと理解する。一方、どこかで納得や共感する意識の存在を感じてしまう。人間はやはり生物学的ヒトなのだろう。2019/04/25
Akira
45
★★★☆ 吉村さん3作目。臣女のとんでもなさやボラード病のザワザワさとはまた違った感じだったけど色んな人種(?)が出てきて面白かった。型にハマりすぎてるのか、型すらないのか?距離が遠いのか、近すぎるのか?村田さんのような今村さんのような。B39と不浄道と三つ編み腋毛が良かった。いや、表題作とイナセと鹿の目もなかなか良かった(笑)人に勧め辛い本がまた増えた2020/01/19
梶
29
此の本は変人に効く処方箋などでは断じてなく、作者の変態性を詳らかに開陳しつつ、理が通っている狂気、スカトロジーが頁を彩る。『哲学の蠅』を先に読んでしまっていたため、男性語り手の中の女性性として表現されていたり、自らを根絶やしにしたいという女性が登場したりするのが意外とすんなりと納得できてしまった。2025/01/19
Tαkαo Sαito
22
これ書けるの吉村萬壱しかいないだろワロタ作品。結局何を読まされてたんだという疲労感笑。その中でもシュールで皮肉がきいてる不浄道の話が好きだった2023/06/11
猫丸
20
どこまでふざけたら怒られるだろうと試すような作品集。しかし安定した着実な文章は現代作家の水準の遙かな高みにあり、作者がきちんと音読した上で推敲を重ねているのがよくわかる。文章を壊す際の匙加減も絶妙。ただ無意味な断片を並べるだけでなく、周到に意識的に違和感を醸成することに成功している。メッセージ性を回避する書き方をしているため、著者の真意など受け取りようがないが「ヤイトスエッド」「鹿の目」からはある種の価値意識が窺える気がする。ただし「てなこと言うとりますが」と即座に反転可能な形ではある。2019/04/21