内容説明
全共闘世代のバイブルだった高橋和巳の長編。
博物館に勤める青年・時枝正和は機動隊と学生の衝突で、一人の学生が橋から転落する様を偶然目撃する。
煩雑な人間社会から逃れるように古美術世界に沈潜していた時枝だったが、この出来事により、閉ざしてきた外界に対する怒りと悲しみが再び覚醒する。事故死と報道された学生の死――だが、時枝は死んだ学生のガールフレンドに会い、事件の深層に迫ろうとするのだった。
全共闘世代に多大な影響を与え、早世した作家・高橋和巳が、その晩年、理想と現実に引き裂かれる内面の荒野を描き、未完のまま絶筆した長編小説の復刻。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おたま
10
著者が亡くなるまで連載し、ついに<未完>のままになってしまった小説。60年代末の時代背景の中で物語は進んでいく。博物館の学芸員時枝正和は、郷里への帰途、たまたま学生と機動隊が衝突する現場に出会う。一人の学生が、頭を抱きかかえるようにして、橋から転落していくのを目撃する。また、時枝が下宿していた家の二女である恵子が、学生寮管理問題で紛糾し、怪我を負うという事件にも関わっていく。そうした中で、時枝の日常生活に、次第に亀裂が入っていく。裁判や報道、学内組織等の欺瞞性に気づき、自分の生を変えざるを得なくなる。2020/12/07