内容説明
ハンセン病患者に寄り添い続けた精神科医・神谷美恵子。瀬戸内の療養施設の経験、使命感、育児、心に残る人々……人間と死に真摯に向き合い、たおやかに生きた人の美しい随想。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
pirokichi
19
読後、とてもおいしい水をのんだような、清らかなものが体を流れたような、そんな気もちになった。「死因となる病気の性質や経過、また死に行く人の年齢や気質や体力によっても死にざまは左右されるのだから、いわゆる大往生をとげるかとげないかは、そう問題にするに足らないことがらなのではないだろうか。それよりもふだん生きているとき、どのような生きかたするか、のほうが大切だと思う」。自分自身、〈死にざまは生きざま〉のような言葉に何かしっくりこないものを感じていたので、この神谷さんの文章は涙がでるくらいうれしかった。2021/03/25
おりがみ
8
精神科医神谷美恵子のエッセイ集です。医師、患者、母親、娘として現実に誠実に向き合い、悩んだ結果したためられた文章に揺さぶられました。経験の深さにも驚きますが、そこからさらに自省して他人に寄り添う、どこまでも真面目な強さに感動します。「生きがい」「使命感」「なぐさめ」平凡な言葉に語る人によってここまで深みを与えうるものかと敬服しました。STANDARD BOOKSシリーズの中でも特に日々の支えになってくれるすばらしい一冊です。2018/11/22
マイケル
7
ハンセン病(本文は「らい」)の療養施設「国立療養所長島愛生園」に15年間勤務した精神科医のエッセイを集めた本。離島という隔離にもっとも適した環境の「隔離の島」に住む、「極度の肢体不自由、顔貌その他の変形、感覚麻痺からくる身体図式の変容、らいの悪化の場合に生じる絶望感、家族および社会からの疎外(p16)」という悲惨ならい患者たち。自殺する人も結構いたよう。後半は著者の生い立ちを中心にした内容。9歳でジュネーブの学校に転校したことが大きな転機に。最後の章でグレン・グールドのバッハに触れているのがうれしい。2020/01/28
at@n
4
根源的な人間の生命への信頼ということが高らかに謳われていると思うのだが、時代背景もあり、ハンセン病隔離政策について積極的にも消極的にも賛成の意が示されているためかなり戸惑いながら読んだ。2021/06/05
Nさん
4
精神科医として、ハンセン病患者療養施設に勤務した経験などを基にしたエッセイ集(著者の死後に再編集)。ハンセン病患者の気持ちを安易に理解しようと考えるのではなく、ただ寄り添い話を聞く。それだけでも幾分救われた人もいたことでしょう。戦争を経験した世代。かなりの良家出身のようで、子供の頃から海外で生活をしたり、女子大へ進学したり、海外留学を経験し医学者に転向したり、とてもとても庶民とは掛け離れた階層の生き方をされてきた。嫌味ではなく、その経験が一つ一つのテーマへの深い洞察に繋がっているように感じた。2020/07/27