内容説明
音楽の道をあきらめ、文学を志した十代。大学では英文科に籍を置くもののフランスの詩に心惹かれた。稲垣達郎、小沼丹、新庄嘉章……錚々たる師の学恩に導かれるも道は険しく遠い。雑誌記者を経て、競馬で食いつなぎ、結婚後は、英語の私塾で糊口をしのぐ。クラシック音楽、古典文学、写真、陶器、書と様々な学びを得て二十数年、曙光が漸く身を照らし出した。著者の文学的軌跡を刻む傑作随想。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
kokada_jnet
60
2015年刊行。早稲田の英文科を出て、短期間、雑誌の編集者などをした後、出身地の愛知に戻って見合い結婚をして、長らく英語塾をやっていたという、作家になる以前の下積みの前半生を描いたエッセイ集。渋い中国古代史の世界を高踏的に描いていた先生が、こういう俗っぽい回想をするとは、意外すぎだが。そういえば、日本を舞台にした時代小説は、通俗な作品だった。2025/10/14
akira
24
エッセイ。 宮城谷さんのエッセイははじめてかも。いい内容だった。あれだけ中国古代文学を出版し、私達が知らない世界を開拓してきた著者にもこんな苦悩があったとは。作家になるまでの過程、結婚、そして数々の名作が生まれる流れがそこにある。 原書にあたる感動を書いた一節。翻訳にも味があるのは事実。だが、それを自分と直で読めることの感動は知らない。今更ながらにも、原書に当たる挑戦はしてみようと思う一節だった。 「翻訳されたものではなく、英語の世界にいるホームズとワトソンに会うのは、何と爽快なことか」2022/01/26
やまちゃん
13
短いエッセイで淡々とさりげないが少々変人と思われる。米作家ポオの書き出しのアルファベットが「黄金虫」は豊かさのM、「盗まれた手紙」は覆われたもののA、「アッシャー家の崩壊」が下降を暗示しているDではないかなど原文の魅力を教えられた。本筋は古代中国の歴史小説家で「歴史を知ると知らないでは人生の豊かさに大いなる差が生じる」などだが写真など趣味が多くて幅のある人だった。2017/12/31
Yodo
11
小説家として成功していなかったらダメ人間っぽい。明治から昭和のダメ人間(高等遊民)をトレースしているようにも見える。小説書こうと会社を辞めてしまったが、お金は必要なので競馬で稼ごう、などダメ人間の鏡ではないですか。大半が創作で演出された文章かもしれないですが。売れ始めるまでお金に困った感じもしないから、実家からの援助があったのかもしれない(書かれてないので分からない)。作品に価値があれば、作者の人格や考え方、信念は何でもいいかな、という人かもしれぬ。Wikipedia の説明では普通の人に見えた。2024/07/05
BIN
8
宮城谷さんの回想集といったところか。英文科出身なのにフランス詩(翻訳版)に凝っていたことや、故郷蒲郡や恩師のこと等が綴られている。土壇場まで就活しなかったことや陶器が好きなことは知らなかった。小沼先生などいい先生に恵まれたんだと思いました。お見合いの席で沈黙の方が長かったけど苦痛ではなかったと思える奥さんに出会えたのは羨ましい限りです。2017/12/14
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